前回から続く)  NFCの普及はFeliCaとType A/Bという方式の覇権争いを引き起こす一方で、市場を爆発的に拡大させる。

 拡大するのは二つ。まず、用途としては、非接触ICタグに代表される「カジュアルな使われ方」(ソニー)が一気に広まる。通信方式としてのFeliCaは、普及促進団体であるNFC Forumが規定する非接触ICタグのうち「Type 3」に当たる。これは、Type A/Bのタグと機能的な差異がほとんど無いため、Type A/B方式の海外製品と価格競争を余儀なくされる。

 もう一つは海外市場で、市場が日本や一部の非接触ICカード先進国から、世界中に急拡大する。こちらは、決済サービスに必要な暗号化処理・鍵管理を行う領域「セキュア・エレメント」を用いる高度な利用場面だ。

気軽にデータ交換できるように

 前者のタグに関しては、FeliCaを開発したソニー自身が特に期待を寄せている。「市場を広げる努力は何でもする」(ソニー コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ プロフェッショナル・ソリューション事業本部 FeliCa事業部 営業部 担当部長の竹澤正行氏)と意気込む。

 家電機器への組み込みには、FeliCa対応リーダー/ライターやおサイフケータイとの間のデータ転送を可能にする「FeliCa Plug」を利用する(図1)。FeliCa Plugを組み込んだ機器であれば、NFC対応機器として海外でもそのまま販売できる。FeliCa Plugを内蔵する歩数計や血圧計、体重計などを販売するオムロン ヘルスケアは「最初から海外を意識して開発した」(図2)。

図1 電子機器製品に組み込み、外部リーダー/ライターとのデータ転送を可能にする「FeliCa Plug」
図1 電子機器製品に組み込み、外部リーダー/ライターとのデータ転送を可能にする「FeliCa Plug」
図2 FeliCa Plug内蔵の血圧計は携帯電話機に測定データを簡単に転送できる。NFC機能搭載の「Nexus S」でも反応するが、サービスには対応していない
図2 FeliCa Plug内蔵の血圧計は携帯電話機に測定データを簡単に転送できる。NFC機能搭載の「Nexus S」でも反応するが、サービスには対応していない

 この他、ソニーはFeliCaの標準機能からセキュリティー機能を簡易化した「FeliCa Lite」にも力を入れる(図3)。これは、電子チケットやスマート・ポスターなどに利用する。さらに、何も情報が書かれていない非接触ICタグである「ホワイト・タグ」があれば、ユーザーがスマートフォンからタグに、自由自在にデータを書き込めるようになる。ホワイト・タグは今のところ一般には流通していないが、アプリケーション開発者は「家電量販店やコンビニエンスストアで販売してほしい。新しいサービスを開発しやすくなる」(Android女子部のあんざいゆき氏)と期待を込める。

図3 FeliCaの標準機能からセキュリティー機能を簡易化した「FeliCa Lite」
図3 FeliCaの標準機能からセキュリティー機能を簡易化した「FeliCa Lite」

NFC先進国の経験を生かして攻める

図4 NTTドコモのNFC対応ロードマップ。2011年2月14日から17日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2011」で披露した
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 海外市場に関しては、ソニーがフェリカネットワークスやNTTドコモなどと進めている取り組みがカギを握る(図4 Tech-On! 関連記事)。現在、FeliCaの暗号処理回路を搭載したSIMカードを開発しており、実現すれば、このSIMカードの差し替えだけで海外メーカーのNFC搭載携帯電話機をFeliCa搭載機にすることができる。こうなれば、鉄道や電子マネーなどでFeliCaを検討してもらえる余地も増える。

 さらに、モバイルFeliCaで実現されている複数のサービスを1台の携帯電話機上で動作させるマルチ・アプリケーション機能や、セキュア・エレメント上のアプリケーションをフェリカネットワークス1社で管理する体制などは、これから海外で作られようとしているものだ。日本では2004年のサービス開始以来、7年間も破綻なく動いており、この実績を武器に非接触ICカード・サービス未開の地を攻めるシナリオが描ける。

日本は既に2周目、3周目

図5 ビットワレット 最高戦略責任者 CSO渉外・企画室 室長 兼 事業部門 国際事業推進部 部長の宮沢和正氏
図5 ビットワレット 最高戦略責任者 CSO渉外・企画室 室長 兼 事業部門 国際事業推進部 部長の宮沢和正氏

 海外市場に魅力を感じ、ソニーやフェリカネットワークス以外の企業も進出を狙い始めた。これまで国内でFeliCaを利用したビジネスを展開してきた事業者にとっては、蓄積したノウハウは大きな武器になる。「海外ではサービスがこれから始まる。まだ気付いていない課題もたくさんある」(NTT ドコモ フロンティアサービス部 おサイフケータイ事業推進担当部長の中村典生氏)ためだ。

 「日本は既に2周目、3周目を走っている。だから1周目の海外事業者の悩み、そして解決策は手に取るように分かる」(ビットワレット 最高戦略責任者 CSO渉外・企画室 室長 兼 事業部門 国際事業推進部 部長の宮沢和正氏、図5)。ビットワレットは、海外での電子マネー事業の準備を着々と進める。2010年7月1日に「国際事業推進部」を新設し、各国で売り込みを掛けている。「日本での実績が評価され、感触は大変良い。これまでの経験は売り物になる」(同氏)という。