Type A/Bの攻勢が始まる

 すっかり生活に浸透したかに見えるFeliCaだが、2011年後半、スマートフォンにNFC機能が標準搭載されるのをきっかけに状況が大きく変わる(図3)。NFCの普及によって、海外で主流となっている無線通信規格「ISO/IEC14443 Type A」や「ISO/IEC14443 Type B」に準拠した、FeliCa以外のNFC対応製品が日本でも利用しやすい環境になるからだ。NFCの標準規格が定めているのは通信部分のみで、FeliCa、Type A、Type Bの3方式を含む。このため、NFC対応品であれば通信技術の差異を吸収でき、ユーザーは通信方式の違いを意識することはない。

図3 NFCの到来でFeliCaの牙城が崩れる
図3 NFCの到来でFeliCaの牙城が崩れる

 ライバルとなるType A/Bの特徴は、何といっても対応する非接触のICカードやタグが安価なこと。迎え撃つ格好になるFeliCaにとっては、製品価格で真っ向勝負を迫られる場面が増えそうだ。

 Type A/B方式という選択肢が登場したことで、これまでFeliCaと付き合ってきた企業はNFCという波への乗り方を本格的に検討し始めている。端末の方向性を決める携帯電話事業者や、端末を利用してサービスを展開する流通事業者など、NFCへの対応は立場によって異なる。ただし、その多くはこの変化を好意的に受け取っているようだ。

 例えば、電子マネー「nanaco」を提供するセブン&アイ・ホールディングスは「FeliCaで実現しているのと同じ機能が用意でき、カード調達やシステム維持のコストが安ければ方式は問わない」(セブン・カードサービス執行役員の磯部俊宏氏)とし、nanacoのNFC化に積極的に取り組む方針だ。NFCの場合、カードはFeliCaの数分の1程度の価格で仕入れられる上、システム維持コストも安くできる可能性が高いという。

新市場に活路を見出す

 一方、FeliCaを開発したソニーや、モバイルFeliCaのライセンスを管理するフェリカネットワークスにとっては大打撃となる。交通系の用途など既にインフラが整っている場面ではFeliCaが生き残る道はあるが、電子マネーやポイントカードなど厳しい戦いを強いられる場面が増えるとの見方が大勢を占める。

 ただし、NFCが普及することで市場自体は爆発的に拡大する。この変化を生かすことができれば、FeliCaにとっても大きなチャンスとなりうるのだ。ソニーは、「タッチするだけ」という簡易な動作でデータをやりとりできる特徴を生かした「カジュアルな使われ方」(ソニー)と、海外市場の二つに活路を見出す戦略に打って出る。


――次回へ続く――