LEAFの「CARWINGS」における走行可能距離の「輪」
LEAFの「CARWINGS」における走行可能距離の「輪」
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 エレクトロニクス業界にとって位置情報の正確度を向上する技術の重要性が高まりつつある(関連の動向をまとめた『日経エレクトロニクス』の2011年3月7日号特集「決め手は位置情報」は(こちら)。従来,消費者向けの位置情報を利用するアプリケーションを牽引したのはカーナビだった。低価格のPND製品の普及により,特に米国市場においてカーナビが一般の消費者の間で手軽に体験できる位置情報サービスになっている。そして,今後は電気自動車(EV)の普及や,スマートフォンと自動車との関わりという二つの要因によって,さらに自動車向けの位置情報分野が重要になりそうだ。

詳細な位置情報を要求するEV

 今後市場に登場するEV製品と従来の自動車を比較すると位置情報システムにいくつかの違いがある。一つは,充電施設に到着する前に電力が切れる,いわゆる「走行距離不安症」をやわらげるため,位置情報が重要な役割を果たすとみられること。もう一つは,EV向けの情報サービスやファームウェアのアップグレードなどを実現するために,EVに携帯電話通信による常時データ通信機能が標準装備されること。日産自動車の「LEAF」や米Ford Motor Co.のEVが利用するテレマティクス・サービス向けのプラットフォームを提供している米Airbiquity, Inc.,Vice President of Marketing,Leo McCarthy氏は「従来のカーナビの多くは,ユーザーが時々新しい地図情報を加えるためにUSBメモリを接続する必要がある」という。常時接続機能を備えるEVであれば,こうした問題を避けられる。

 EV向けの位置情報サービスの例で,LEAF向けの「CARWINGS」の場合,地図上に自動車の位置から想定される走行可能距離の「輪」を表示する。ただし,高度の変化や道の渋滞などの事情により,表示されている輪より走行可能距離が短くなってしまう場合もある。McCarthy氏によると,EVメーカーとAirbiquity社は,こうした状況の改善に向けて動いているという。例えば,EV向け位置情報のアルゴリズムに高度の情報を加えるといったことである。EVでは,外の温度が低くなるほど電池の効率が低下する現象がある。従って,高度の変化だけでなく,現地の温度の情報も走行可能距離を計算するアルゴリズムに組み込むことを検討している。こうした情報は,地図情報を提供する企業から受けることができるとする。

 EVで常時接続を利用する例として,McCarthy氏は「EVを保有する顧客を引き寄せるために小売店舗はEV充電装置の設置を検討している」と述べている。こうした小売店は,EV保有の顧客が店舗の近くに来ると割引クーポンなどをカーナビに転送することなどを検討しているという。

 自動車向けの情報通信分野の調査を手掛ける米Gartner, Inc.,Vice President AutomotiveのThilo Koslowski氏は,消費者向けのEVより業務向けのEVの方が,位置情報を利用するサービスへのニーズが高いと指摘する。「価格が高いEVを採用する企業にとっては,走行可能距離を最大限利用するために細かい位置情報サービスが不可欠」(同氏)。例えば,走行可能距離の計算に影響する交通状態を理解するためには,現在走っている車線などの細かい情報が必要になる。業務用途のEVは都会で利用することが多いと想定しており,A-GPS(assisted gps)へのニーズが高まる可能性があるという。

位置情報で自動車とスマートフォンが連携する

 さらに,自動車メーカーはスマートフォンのソフトウエア・アプリケーション(アプリ)と自動車の連携を必死に模索しているとAirbiquity社のMcCarthy氏は指摘する。一つの例として,Ford社のテレマティクス・サービス「SYNC」では,インターネット・ラジオPandoraのスマートフォン・アプリから発信した音楽を自動車のAVシステムで再生できることが挙げられる。この分野で,位置情報サービスに関連した話題もあるという。

 カーナビを搭載する自動車では,携帯電話機より詳細な位置情報を取得できるGPS装置を備えていることが多い。「自動車のカーナビからスマートフォンのアプリにGPS情報を提供する手法を探っている」(McCarthy氏)。加えて,自動車での移動により,特に欧州市場では法律が異なる国に移る可能性があるという。自動車のカーナビとの連携により,違う国などに移動すると,カーナビがスマートフォンのアプリを新しい位置に関係する法律などの情報を考慮した上で,スマートフォンのアプリを動作させることなどを検討しているという。