第1部<動向>
キッカケはスマートフォン
位置情報利用の基盤が整う

スマートフォンの普及と連動して,位置情報を取得するための基盤が整ってきた。この影響は,これまでゆっくりと位置情報の利用を広げてきた産業機器にも及ぶ。測位技術があらゆる機器やサービスへと広がり,高精度な位置情報を安価に使える世界が訪れる。

民生機器と産業機器が相互に影響及ぼす

 米国シリコンバレーのベンチャー企業が,Webサービスの巨人である米Google Inc.を相手取った訴訟が進行中である。従業員数わずか32人の米Skyhook, Inc.が2010年9月15日に提訴した。訴状によると,Google社は米Motorola, Inc.などに対して,Android端末でSkyhook社の技術ではなく,Google社の技術を採用するように要請したという。要は,業務妨害である。Skyhook社は,この技術に関連する特許をGoogle社が侵害したと主張する訴訟も,同時に起こしている。

 今回の訴訟で問題となっているのは,位置情報の取得技術である。Skyhook社は無線LANとGPS,携帯電話の基地局の情報を組み合わせて,携帯電話機などの所有者の現在位置を測定する技術を開発している。

好循環に入る

 こうした測位技術は従来,カーナビなど一部の機器での利用にとどまっていた。しかし最近では,iPhoneやAndroid端末といったスマートフォンの普及によって一気に用途が拡大する兆しが見えてきた。スマートフォンは,位置を測定できるGPSや各種センサを搭載している上に,画面が大きく地図などを表示しやすいからだ。

 スマートフォンの普及によってWebサービスで位置情報を利用する人が急増し,それに群がるように開発資金やアプリケーション・ソフトウエアの開発者が位置情報を使ったサービス分野に集まる。それにより,さらにユーザーが増える──。こうした好循環に入ろうとしているのだ。

『日経エレクトロニクス』2011年3月7日号より一部掲載

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第2部<ケーススタディー>
日常生活に不可欠な存在に
目的別に五つのキーワード

位置情報は,SNSや“位置ゲー”だけでなく,農業や土木,気象予報に災害防止,さらには通勤などで利用する鉄道の安全運転にも貢献している。ここでは,人々の生活に浸透しつつある位置情報の最新事例を見ていこう。

位置情報の応用例

 位置情報の利用が進む分野に焦点を当てて,最新の事例と今後の展望をまとめた。目的別にそれらの事例をまとめると,「動かす」「作る」「予測する」「守る」「運ぶ」という五つのキーワードが浮かび上がってくる。

『日経エレクトロニクス』2011年3月7日号より一部掲載

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第3部<測位技術>
使える技術は何でも使い
シームレスと高精度に挑む

測位技術は「マルチ」をキーワードに進化し,すべての携帯機器の必須機能になる。目指すのは,屋内外でシームレスに正確な位置を把握できる環境の整備だ。スマートフォンなどで進むハードウエア基盤の整備や,衛星測位の進化が,それを後押しする。

屋外でも屋内でも「マルチ測位」がキーワードに

 2011年末にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が発売を予定する携帯型ゲーム機「Next Generation Portable(NGP)」(仮称)。同社がその中核機能の一つと期待するのは,測位技術である。狙いは,日常生活でのユーザーの振る舞いを,位置情報を核にデータとして取り込み,ゲーム・ソフトやインターネット・サービスに応用することだ。

 これを実現するため,NGPには測位に利用できる関連技術をてんこ盛りにした。同時に,位置情報を活用するソフトウエア開発ツールも用意し,外部の開発者による応用分野の拡大を目指す。

 複数の測位技術を機器に取り込む同様の動きは,既にスマートフォンやデジタル・カメラなどにも広がっている。測位技術は今後,すべての携帯機器の必須機能になりそうな勢いだ。位置情報を扱うWeb標準技術の広がりや,GPS受信LSI,各種センサの価格低下がそれを後押ししている。

「マルチ測位」で継ぎ目を塞ぐ

 携帯機器での盛り上がりを背景に,測位技術は今後数年間でこれまで以上に進化の歩みを速めることになる。キーワードは「マルチ」だ。複数の測位技術を組み合わせることで,測位できる場所の範囲を広げたり,精度を高めたりする技術開発が大きく進展する。これまで,産業用途で使われていた精密測位技術を,携帯機器に取り込むような動きも出てきそうだ。

『日経エレクトロニクス』2011年3月7日号より一部掲載

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