Cree社のSiC基板。左がパワー素子用の4インチ品,右がLED用の6インチ品
Cree社のSiC基板。左がパワー素子用の4インチ品,右がLED用の6インチ品
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 「基板開発最前線」の連載2回目は,SiC基板メーカーの取り組みについて紹介する。現在SiCを利用したパワー半導体素子(以下,パワー素子)は, IGBTなどのSi製パワー素子と比べて,インバータなどの電力変換器の高効率化や小型化が可能になるとして注目を集めている。SiC製ダイオードは製品化から約10年近く経過し,エアコンに採用されるなど,普及する兆しが見えてきた(Tech-On!関連記事1)。実用化面で遅れていたトランジスタも,切望されていたMOSFETの製品化が2010年末からついに始まるなど,SiC製パワー素子の開発が急ピッチで進んでいる。

 そのSiC製パワー素子を製造する上で欠かせないのが,SiC基板である。基板の口径や品質が,パワー素子のコストや性能を大きく左右するからだ。このSiC基板の分野で,事業面,技術面でトップを走るのが米Cree Inc.である。

 同社によれば,これまでは3インチ品が主流だったが,これからは4インチ品が主流になるとみている。口径が大きくなるほど素子の生産性が向上し,低コスト化につながるためだ。同社は既に6インチ品を開発済みで,2012年中ごろの商用化を目指している(Tech-On!関連記事2)。現在,開発済みのSiC基板にある,マイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥の密度は10個cm-2未満。この密度をさらに減少させ,4インチ品で実現しているほぼ0個,いわゆる「マイクロパイプ・フリー」を6インチ品でも実現する考えを持つ。さらに,まだ具体的な計画はないとするものの,8インチ化も視野に入れている。

 SiC基板の分野において,Cree社が強みを発揮できる一因は,同社が基板事業だけでなく,素子事業も自ら手掛けていることがある。Cree社はこれまで,SiC基板で製造したダイオードを製造・販売し,2011年1月には,MOSFET製品も新たに発表した(Tech-On!関連記事3)。パワー素子の製造を行うことで,パワー素子の立場から見て必要とされる基板の改善を,迅速に行うことができるという。

 Cree社は,パワー素子用途だけでなく,白色LEDで利用する青色LEDチップや,基地局などで利用する高周波素子で利用されるSiC基板を製造している。つまり,LED,高周波素子,パワー素子の三つのカテゴリーで,SiC基板事業を展開しているのである。このうち外販するのが,高周波素子とパワー素子用である。LED用は,自社が製造する高効率白色LED内の青色LEDチップだけで利用しているという。LED用のSiC基板であれば,2011年から6インチ化を徐々に進める考えを持つ。

SiC製パワー素子の開発スピードが向上