SiC(シリコンカーバイド,炭化珪素)製パワー半導体素子(以下,パワー素子)をインバータやコンバータ,スイッチング電源などに利用すれば,現行のSi製パワー素子と比較して,大幅な電力損失の削減が可能になる。このため,省エネの切り札として,大きな注目を集めている。

 SiC製パワー素子における2010年の最大のトピックは,ダイオードが初めてエアコンに搭載されたことだ。パワー用途のSiC製ダイオードは2001年から製品化されてきたが,高価なため,その利用は一部の産業機器など用途が限られていた。

 エアコンへの採用に踏み切ったのは三菱電機(Tech-On!関連記事1)。同社はこれまで,SiC製パワー素子の研究開発に積極的だったものの,製品化に関しては慎重な姿勢を見せていた(同2同3)。実際,同社が2010年5月に開催した経営方針説明会では,具体的な製品化スケジュールなどについては明言せず,SiC製パワー素子を採用した製品を2010年度中にサンプル出荷,2011年度中の量産出荷を目標と発表するにとどめていた。

 ところが,その発表から一転,3カ月後の8月には,2010年10月から発売する同社のエアコン製品10機種のうちの2機種のインバータ・モジュールに,同社製のSiC製ダイオードを搭載することを発表した。

SiC製ダイオードを搭載した三菱電機のエアコン。CEATEC JAPAN 2010での展示

 エアコンへの搭載は,SiC製ダイオードが民生機器に利用できるほどの価格にまで下がってきたことを意味する。SiC製パワー素子に詳しいある技術者によれば,耐圧600Vや電流容量数AのSiC製ダイオードの価格は,同程度の耐圧と電流容量を備えたSi製ダイオードの3倍程度まで下がってきたという(関連NEブログ)。5年前の2005年は,10倍ほどの価格差があったようだ。

 安価になってきたのは,製造技術の改善に加え,ダイオードを手掛ける企業が増加したためである。そしてSiC製パワー素子を製造するために必要なSiC基板が安価になったことなどがSiC製パワー素子の低コスト化に大きく貢献した。

 実際,SiC製ダイオードを手掛ける企業は増えている。これまで,SiC製ダイオードを手掛けていた企業といえば,ドイツInfineon社や米Cree社,伊仏合弁のSTMicroelectronics社,ドイツSiCED社,米SemiSouth Laboratories社といった海外企業が中心だった。ここにきて,三菱電機以外の日本企業でもSiC製ダイオードの製品化に積極的になってきた。

 例えば2010年5月には,ロームがSiC製ダイオードの量産に乗り出すと発表した(Tech-On!関連記事4)。同社は,SiC基板のメーカー,ドイツSiCrystal社を2009年に買収するなど,日本企業の中でも,特にSiC製パワー素子の開発に積極的な企業である(同5)。長らくサンプル出荷にとどまっていたが,ついにSiC製ダイオードの量産に踏み切った。

 また,2010年秋には,富士電機ホールディングスが産業技術総合研究所と共に開発を進めてきたSiC製ダイオードを2011年度中にサンプル出荷することを明らかにした(Tech-On!関連記事6)。

いよいよMOSFETが登場へ