図1
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図2
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 富士フイルムは,同社従来比2倍のオートフォーカス(AF)速度を実現したレンズ一体型カメラ「F300EXR」を,2010年9月に発売する(図1)。想定実売価格は4万5000円。通常は撮影に使う画素の一部を測距用に割り当てることで実現した。

 こうしたAFは,キヤノンやニコンといった一眼レフ機メーカーや撮像素子メーカーがミラーレス機に向けて開発中である。富士フイルムによる実用化は,未発表の他社AFも”ものになる”可能性が高いことを示したといえるだろう。

 F300EXRは,一眼レフ機で一般的な「位相差式」AFを基本的に用いる。ミラーレス機やレンズ一体機で広く用いられている「コントラスト式」AFは補完的に使うのみである。位相差式AFは,物理的に離れた2点から得られる照度のズレからカメラと被写体の距離を推定,合焦レンズを一気に動かしてピントを合わせる。これに対してコントラスト式AFは,合焦レンズを動かすことで画像がくっきり見える(=コントラスト比が高い)合焦レンズの位置を探し出す。

 つまりコントラスト式は,合焦レンズ位置とひも付けられたコントラスト比を取得しては逐一,レンズ動作に反映するというフィードバックに時間がかかりやすい注1)。位相差式は,合焦レンズ位置の把握やフィードバックをコントラスト式ほど頻繁にしないので精度は原理的に劣る。しかし,それだけに速いという特徴がある。

注1)ただし,パナソニックのミラーレス機は,コントラスト式ながら合焦レンズの軽量化などによって,位相差式を超える場合もある非常に高速な合焦を実現している。この詳細は日経エレクトロニクス,2010年4月5日号の記事にあり。

 一眼レフ機の位相差式AFでは,測距のみに用いる撮像素子を用いている。ここに光学像を送り込むため,一眼レフ機はいわゆるサブミラーも内蔵している。これに対し,F300EXRはいずれも搭載していない。撮影に使う画素の一部を測距用に割り当てたからだ。図2の黄色が測距用の画素,水色が撮影用の画素を示している。

 富士フイルムが今回施した最大級の工夫は,測距用画素と撮影用画素に同じフォトダイオードを用いたことである。製造プロセスを複雑にせず,歩留まりを低下させないためだ。

 ただし,これでは非常に明るいシーンや大変暗いシーンで測距ができなくなる可能性がある。前者で測距不能となるのは,測距用画素の出力が飽和するため,後者でそうなるのは測距用画素のS/Nが低いためである。そこで富士フイルムは,前者(出力飽和という電荷をためるバケツの容量が小さすぎる問題)を回避するため二つ工夫をした。

 (1)測距用画素においてフォトダイオード覆う遮光膜の面積を大きくした。さらに(2)測距用画素を数万個と,一眼レフにおける測距専用撮像素子より大幅に多くした上で,複数の画素の出力を撮像素子中で足し合わせる「画素加算」を積極的に実行した。一方,後者(測距用画素の低S/N)に対しては,暗いシーンでは位相差式AFを用いないという割り切りをした。コントラストAFに切り替えるのだ。F300EXRはAF補助光源を搭載している。