中野ブロードウェイ
中野ブロードウェイ
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センサ・ネットワーク・システム「ZigNET」の無線端末を構内各所に配置
センサ・ネットワーク・システム「ZigNET」の無線端末を構内各所に配置
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構内の廊下の上部などに設置
構内の廊下の上部などに設置
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電力などのデータを,設置した端末で集計
電力などのデータを,設置した端末で集計
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集計した値を演算処理する「Solid Brain」
集計した値を演算処理する「Solid Brain」
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プロジェクトに関わったメンバー
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 マンガ専門の古書店「まんだらけ」など数百店が軒を連ねる,東京都中野区の商業施設「中野ブロードウェイ」。1960年代に誕生したこの大規模施設に,最新鋭の無線センサ・ネットワーク・システムの導入が進んでいる。

 中野ブロードウェイ管理組合は,2010年4月から,約1200台のメーター(電力および水道)を,無線で遠隔検針するシステムの運用を開始した。同組合が管理する中野ブロードウェイセンタービル(1966年竣工)の,地下1階から地上4階の商業施設部分において,店舗ごとのエネルギー使用量と水使用量などを,無線ネットワーク経由で取得する。検針値は30分間隔で専用サーバに蓄積され,月々の電力料金の管理や,利用状況のモニタリングに活用する。得られたデータを元に,省エネルギーやCO2排出削減に取り組んでいくねらいである。

目視の検針作業は最大10日間も

 中野ブロードウエイセンタービルは,東京電力との間で電力の一括購入契約を結んでおり,ビル地下にある変電設備を用いて各店舗に電力を供給している。このため,電力使用量の管理や料金請求は,中野ブロードウェイ管理組合が行っている。メーターの読み取り値はこれまで,管理組合の担当者が目視で確認していたが,非常に困難な作業だったという。「店舗の倉庫の隅にメーターが設置されていたり,付近に商品箱が積み上げてあったりして,目視作業は非常に大変だった。また,店舗が休業だったり担当者が不在だったりするため,検針を開始してから終了するまでに10日間ほどかけていた」(中野ブロードウェイ管理組合)。

 こうしたことから管理組合は,電力メーターの更新時期と重なることを好機に,数年前から自動検針システム導入の検討を始めていた。加えて,東京都による温室効果ガスの排出削減義務や,改正省エネ法の施行など,商業ビルをめぐる環境規制が厳しくなっていることも,エネルギー監視システム導入の背景にあるという。「将来の省エネルギー規制に対応するためには,電力の使用状況をきちんと把握しておかねばならない。このためには,きちんとした管理システムが必要になる」(同管理組合)。さらに昨年末,産業技術総合開発機構(NEDO)が実施した「次世代建築物制御技術標準化実証事業」に採択されたことで(関連資料),システム導入資金の面でも「タイミングが良かった」(同管理組合)としている。

ZigBee無線を活用

 中野ブロードウエイセンタービルに今回導入されたシステムは,約1200カ所のメーターに接続する無線端末と,無線中継装置,データ監視装置などで構成する。1台の無線端末に,数十台の電力メーターや水道メーターが接続されており,その読み取り値を集約する。こうした無線端末が棟内に約40台設置されている。無線端末間の通信方式には,2.4GHz帯を活用したマルチホップ接続可能なプロトコルを採用しており,取得したデータを数珠つなぎにしてデータ監視装置まで送る。データ監視装置では,取得したデータを専用サーバ(PCサーバ)に記録するほか,専用画面にリアルタイムに表示して,利用状況を監視員が確認することが可能だ。

 マルチホップ接続可能な無線端末や,データ監視装置など主要なシステムは,日立プラントテクノロジーが手掛けた。同社が開発した無線センサ・ネットワーク・システム「ZigNET」を用いている(Tech-On!の関連記事)。ZigNETは,通信プロトコルにZigBeeを採用したシステムで,マルチホップ接続によって,屋外の場合で約10kmという長距離伝送が可能である。米Ember Corp.のZigBee用送受信チップを組み込んだモジュールを基に,日立プラントテクノロジーが無線端末に仕立てている。長距離伝送が可能なことから「従来の無線センサ・ネットワークのシステムに比較して,無線端末の台数を少なくでき,全体の導入コストを低減できる」(日立プラントテクノロジー 社会・産業システム事業本部 電機・制御技術本部 電機制御システム部 制御設計グループ 主任技師の伊藤力氏)という。

 データ監視装置で集約した検針データは,外部ネットワークを通じて,エネルギー情報分析サービスを手掛けるヴェリア・ラボラトリーズのサーバにも蓄積される。中野ブロードウェイ管理組合は,ヴェリア社とエネルギー管理のASPサービスに関して委託契約を結んでいる。ヴェリア社は,取得したデータを基にして,入居テナントごとのエネルギー利用量をグラフィカルに表示したり,省エネルギーやCO2排出削減に向けたコンサルティング・サービスを提供する。

集客に影響無いことを重視

 中野ブロードウェイセンタービルでの遠隔検針はまだ始まったばかりで,「運用の評価はこれから」(同管理組合)という。それでも,これまで最大10日間ほどかかっていた検針業務を,わずか数分で終了させるシステムへの期待は大きい。また,省エネルギーやCO2排出削減に積極的に取り組む商業ビルとして,施設としてのイメージアップにもつなげたい考えだ。「商業施設の省エネルギーにおいては,照明を暗くしたりするような,集客にマイナスになる措置は取れない。今回のシステムの導入は,集客面や顧客への影響を最小化しながら,省エネルギーやCO2排出削減に取り組むという狙いがある。この取り組みが上手く行けば,ほかの商業施設などにとっても,導入例として参考になるのではないか」(同管理組合)としている。