ソニーの藤巻氏
ソニーの藤巻氏
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 ソニーは,テレビなどの電子機器を電源ケーブル無しで駆動できる「ワイヤレス給電システム」を試作した(Tech-On!の関連記事)。磁界共鳴によって電力を伝える技術で,60Wの電力を50cm~80cm離れた機器に伝送できる。送受デバイス間の送電効率は80%で,電源の整流回路などを加えた効率も60%を確保した。システムの開発に携わった,ソニー コアデバイス開発本部 高周波伝送・映像システム開発部門 RF・信号処理開発部 統括部長 Distinguished Engineerの藤巻健一氏に話を聞いた。(聞き手は蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス)。


――ソニーがワイヤレス給電のシステムを試作した狙いは?

藤巻氏 今回システムを試作したのは,技術的なチャレンジや知財を固めるという狙いが大きい。あくまでも,研究開発の一環と位置づけている。

磁界共鳴に工夫を盛り込む

 2006年ごろから,米MIT(Massachusetts Institute of Technology)のワイヤレス給電に関する発表があり,注目し始めた。その後,ほかのメーカーからの話題も多くなってきた。我々も興味があったが,今さら電磁誘導的な技術に取り組んでも,あまり面白くないと思った。そこで,磁界共鳴技術に焦点を当てた。

 もう一つ,第3の方式として電波型があるが,デジタル家電機器には磁界共鳴や電磁誘導が向いていると考えている。

 磁界共鳴型の技術開発を進める中で,やはりソニーの独自性を出す必要があった。例えば今回発表した給電距離を伸張できる「レピータデバイス」は,当社独自のアイデアである(発表資料)。このレピータデバイスを使えば,給電距離を50cmから80cm程度に伸張できる。レピータデバイスの内部は,送信や受信デバイスと同じような,共鳴構造を備えている。設置する際に,かなりラフに置いても機能できるように作り込んである。

――磁界共鳴型を実現する際に,どのような周波数帯が向いているのでしょうか?

藤巻氏 共振回路のQ値と,寸法が影響してくる。例えば周波数が高ければ,共振回路のコイルの巻き数を減らせるが,表皮効果の影響が大きくなって効率を下げてしまう。開発を進める中では,数MHz~数十MHzのレンジが,扱いやすい周波数帯だろうと感じている。

 例えば今回の試作システムで用いている10MHz前後は,やりやすいところと言える。FeliCaなど,ほかのアプリケーションもあるため,開発という意味での環境も整っている。

 共振回路のQ値としては,条件によるが少し離れたところへの高効率伝送を目指す
場合,数百は欲しいところだ。MITの例では, 約1000くらいと聞いている。コイルを
基板上に設けて薄型化する方法も考えられるが,その場合はQ値の確保が難しくなる。

――ワイヤレス給電技術が,実際にテレビなどの電子機器に搭載されるのはいつごろとみていますか?

藤巻氏 今回の試作システムは研究開発目的であり,事業化の時期は明確ではない。

 総務省の電波政策懇談会などの議論では,2015年以降に数十cmまでの電力伝送が可能となり本格的に家電機器へ搭載されるというが想定が出ている。ただし,実際にはもう少し早くなる可能性もあると考えている。