前回は,センサ・ネットワークの応用先を三つに分けて紹介しました。今回は,無線通信技術に着目し,センサ・ネットワークならではの要求と,それを実現する具体的な規格について解説します。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年4月7日号,「NEプラス」,pp.59-61から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 近距離無線通信技術が発展し,センサ・ネットワークに利用できる通信技術の選択肢は増えています。センサ・ネットワークを構築する際に考慮すべき点を考えてみます。

センサ・ネットワークの特殊性

 情報通信ネットワークの中で,センサ・ネットワークの通信には,次の三つの特徴があります。

  • (1)プッシュ主体
  • (2)トラフィック偏在
  • (3)間欠送信

 通信を「プッシュ(push)主体」か「プル(pull)主体」かに大別すると,Webアクセスは受信者がHTTP(hypertext transfer protocol)リクエストでトリガをかけて情報を引き出してくるプル主体です。他の例では,プッシュとプルが混在することが多いのですが,センサ・ネットワークでは圧倒的にソースがプッシュする通信が主体となります。

 各ソースのプッシュ送信によって,ルータが多段接続されホップ数が多くなるほど,シンクに近いノードにトラフィックが偏ってきます。トラフィックの中身はセンサ・データなので常時送信されるのではなく,送信/スリープのサイクルを繰り返す間欠動作となります。通信技術を選択するときは,これらを考慮する必要があります。

規模で通信技術を絞る

 BAN,PAN,LSAN向けの各種通信技術を表2に挙げます。ZigBeeはセンサ・ネットワーク向けとして開発されているため,他の通信規格と比較すると消費電力,導入コスト,マルチホップ通信のサポートという観点から優れているといえます。しかし,ZigBeeは2.4GHz帯を使用しているため,Bluetooth同様,IEEE802.11bと干渉する可能性があります。従って,使用するチャネルが重複して,信号の干渉が起こらないように選択しなければなりません。

表2 無線通信規格の比較
表2 無線通信規格の比較 (画像のクリックで拡大)