センサ・ネットワークは,個人の生活から社会インフラまでを大きく変える可能性がある技術です。しかし,きちんと理解していないために見方が狭くなっている技術者が現在も少なくありません。ここでは,センサ・ネットワークのモデルや応用分野を,基礎から学びます。さらに,センサ・ネットワークを利用するシステムを開発するときに必要になる技術を解説しながら,電源,OS,セキュリティーなどのポイントを示します。連載の目次はこちら(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年4月7日号,「NEプラス」,pp.54-56から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 センサ・ネットワークの話は,IT系の学会では「おびただしい数のセンサ・ノードが相互に無線通信でつながり,面的に情報を収集する」というところから始まることがよくあります。これは,「スマート・ダスト」という米国の研究プロジェクトの影響を大きく受けているからです。

†スマート・ダスト=米University of California,Berkeley校が1990年代後半に行ったプロジェクトの名称。MEMS(micro electro mechanical systems)による小型無線機能付きセンサをさまざまな所に配置し,ネットワークでつなぐことを目指しました。

 しかし,この見方にとらわれると,センサ・ネットワークの理解は限られたものになってしまいます。数百個,数千個のセンサを使わなくても,身の回りにある1個もしくは数個のセンサのデータを「無線で空間に飛ばす」だけで,これまで隠れて見えなかったものが見えるようになり,新しい価値が生まれてきます。センサ・ネットワーク技術によって,既にゲームや個人の健康管理などの在り方が変わってきています。

 もちろんさまざまな所に配置したセンサからデータを集めれば,一つひとつのデータは単純でもWeb 2.0に見られるような集合知へ発展する可能性も秘めています。例えば,広域の気象情報や渋滞情報などを,的確に把握することができるようになります。

†Web 2.0=Webで提供するサービスに関して,進化したものを表現する用語。例えば,多くの人の知識を集めてコンテンツを作るWebサイトが,Web 2.0型サービスの一つとして挙げられます。

図1 センサ・ネットワーク利用システムを開発するときに理解しておくべきポイント
図1 センサ・ネットワーク利用システムを開発するときに理解しておくべきポイント (画像のクリックで拡大)

 センサ・ネットワークが今後,生活やビジネスを大きく変えていくのは確実です。本稿では,センサ・ネットワークの基礎について,主にネットワークの観点から解説します。センサ・ネットワークのモデルや応用,実現技術,開発時に注意すべき技術的なポイントを示します(図1)。