しかも,共通化の際には,コストと同時に,リード・タイムに影響する開発効率も考慮する必要がある。「利益が最大になる共通化率は,製品の種類やラインアップの機種数によって変わってくる。リード・タイム,コストの両方を加味した上で,最適な共通化率を見つけ出すことが開発の現場では重要」と恩田氏は分析する。

地域に合った味付けも必要

 BRICs市場の攻略で,もう一つ大事なことがある。地域特有のニーズに合った製品の開発である(図12)。従来のように先進国向けの製品をそのまま販売するのでは訴求力は弱い。共通化した構成要素を基にしながら,各国の文化的な背景から生じるニーズにきめ細やかに応えることも,成功の重要なポイントだ。

図12 各地域のニーズに応えた製品開発も重要 (a)は中国で販売されているDVDレコーダー。中国では製品選びをする際に生産地を表示するのが一般的(写真赤丸部)。同じ製品の場合,消費者は産地を見て選ぶことが多いからだ。(b)は,菜食主義者が多いインド向けに,野菜室の機能を強化した冷蔵庫。Samsung社製で,野菜室の湿度を調節したり,脱臭機能などを強化している。(c)は,ロシアで販売されているカラオケ機能付きDVDプレーヤー。ロシアではカラオケは自宅で楽しむもの。同機は,マイク端子を二つ搭載しており,カラオケのDVDソフトを伴奏に歌う。
図12 各地域のニーズに応えた製品開発も重要 (a)は中国で販売されているDVDレコーダー。中国では製品選びをする際に生産地を表示するのが一般的(写真赤丸部)。同じ製品の場合,消費者は産地を見て選ぶことが多いからだ。(b)は,菜食主義者が多いインド向けに,野菜室の機能を強化した冷蔵庫。Samsung社製で,野菜室の湿度を調節したり,脱臭機能などを強化している。(c)は,ロシアで販売されているカラオケ機能付きDVDプレーヤー。ロシアではカラオケは自宅で楽しむもの。同機は,マイク端子を二つ搭載しており,カラオケのDVDソフトを伴奏に歌う。 (画像のクリックで拡大)

 一例を挙げよう。インドでは宗教の関係で菜食主義者(ベジタリアン)が多い。当然,こうした人々は,野菜の消費量が多い上,鮮度も重視する。そこでインドで冷蔵庫を販売するエレクトロニクス・メーカーの多くは,野菜室の湿度調整や脱臭機能を売り物にした冷蔵庫を販売している。使用人が冷蔵庫内に収納した食料品を勝手に持ち出すのを防ぐために,鍵をかけられる製品もある。

図13 BRICs市場に向けたソニーの取り組みの一例 ソニーは2005年秋以降,BRICs市場での製品展開を強化する方針を打ち出している。各地域のニーズに合わせて商品ラインアップを構成していく。
図13 BRICs市場に向けたソニーの取り組みの一例 ソニーは2005年秋以降,BRICs市場での製品展開を強化する方針を打ち出している。各地域のニーズに合わせて商品ラインアップを構成していく。 (画像のクリックで拡大)

 ロシアで販売するDVDプレーヤーではカラオケ機能が必須になっている。日本が生んだカラオケはロシアでも普及しているが,日本のようなカラオケ・ボックスはない。家族で楽しむ娯楽として定着している。このため,ロシアの家電量販店では,マイク入力端子を装備し,カラオケ対応をうたった機種が人気になっている。

 BRICs市場でシェアを伸ばすには,こうした地域文化に合わせた味付けが必要になる。2005年秋からBRICs戦略の強化を打ち出しているソニーでは,インド市場に向けて高出力のスピーカーを搭載したテレビを2006年春に発売する(図13)。また,中国向けには現地に開設した開発センターで,普及価格帯の29型CRTテレビを発売するなど,BRICs各地域のニーズを取り込んだ製品を投入していく,としている。