前回は,嗅覚センサの実現手法として,複数のガス・センサを組み合わせる方法と,人間の嗅覚の機能を模倣するバイオ・センサを用いる手法の二つがあることを説明した。今回は,実用化する上で重要な,センサの小型化の動向を解説する。連載の目次はこちら。(本記事は,『日経エレクトロニクス』,2008年2月25日号,pp.69-71から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
こうした嗅覚センサの応用分野を広げる上で,今後の重要なポイントになるのがシステムの小型化である。
例えば,現在は実験室にしか置かれていないようなガス・クロマトグラフの機能をさまざまな機器に組み込める可能性がある。最近,社会問題になっている食品の産地偽装や,食品の変質は,消費者側で簡単に見破ることができるようになる。
また,呼気による病気の診断機能を備えた携帯電話機を日常のヘルス・ケアの中心に据えようとする動きがある。携帯電話機は個人が常に持って歩く機器であり,通話するときには意識しなくても呼気を吹き付けている。日常の健康状態を測る機器として,これほど適したものはない。
2007年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2007」では,口臭に加え,体脂肪率,脈拍,歩数を計測し,データをサーバーに送って記録できる端末をNTTドコモが披露した。日本の医療費は総額30兆円,生活習慣病に限れば10兆円である。病気を進行する前に見つけて対処することは,莫大な医療費の軽減にもつながる。
MEMSが小型化を後押し
小型の嗅覚センサは,これまでにいくつかが製品化されている。
半導体ガス・センサのメーカーであるエフアイエスは,卓上型の簡易ガス・クロマトグラフを製品化した(図13)。感度は0.1~1ppb。通常のガス・クロマトグラフではキャリア・ガスを供給するためのボンベが必要であるため大型になる。しかしこの装置は,内蔵するポンプで空気を吸い込みキャリア・ガスにするため,非常に小型化できる。測定対象は,呼気やVOCなど特定ガスの分析に限定されるが,「肉の種類や銘柄を,発生するガスを分析して特定できる能力がある」(同社 代表取締役の小笠原憲之氏)という。