内閣官房の知的財産戦略本部は2008年10月29日に,「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第9回会合を開催し,この専門調査会の報告書案をまとめた。著作権の権利制限の一般規定,いわゆる「日本版フェアユース規定」の導入を提言するのが報告書案の目玉である。

 この専門調査会は,2008年4月に第1回会合を開催して以来(Tech-On!の関連記事1),2008年末までに検討結果を取りまとめる予定で議論を進めてきた。同年6月に知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画2008」には,この専門調査会が「検討経過報告」の中で提言した,検索サービスの適法化や,コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの適法化などの方針が盛り込まれた(Tech-On!の関連記事2)。この検討経過報告をまとめた後に,(1)コンテンツの流通促進方策,(2)権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入,(3)ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化,という3点について議論を進めてきており,今回の報告書案はこの3点の検討結果を示すものとなった。

 ある委員は,この報告書全体に対して,「『検討の必要がある』といった表現になっている個所など,弱い意見のように思える部分もあるかもしれないが,この専門調査会の目的は大所高所から見たグランド・デザインを描くこと。個別の具体的な方策を考えることではないと思う。そうした点で,私はこの報告書案の方針を支持する」と述べた。今回の会合で委員からの大きな反対はなく,内容に関する大幅な修正はなさそうな情勢である。知的財産戦略本部はこの後,報告書案に対するパブリック・コメントを募集する予定。専門調査会はそれを踏まえて議論を重ね,2008年内に報告書を確定させていく。以下では,今回提出された報告書案の主な内容と,第9回会合で委員から寄せられた意見をまとめる。

1)コンテンツの流通促進方策

 今回の報告書案では,問題意識として「一般論として,コンテンツは市場の需要と供給のバランスにより,権利者と利用者が合意すれば流通するものと考えられる。しかしながら,我が国の場合,特に放送番組については,欧米に比べ契約慣行が浸透していないため権利処理コストが増大し,これが新しいメディアの出現に対応したコンテンツ流通を阻害する一因となっている」といった意見を提示した。

 その対策として「契約による権利処理を一層促進するための取組を早急に進めることが必要である」ことや「放送事業者に対しては,製作段階においてその後の利用を含めた契約を行うよう自主的な努力を促すべきである」ことを挙げた。契約による権利処理を促進する取り組みの例として,権利者団体などが主導して権利の集中管理を進めることや,ネット上の利用に関してコンテンツの特性に応じた標準的な許諾条件を契約ルールとして定めることなどを示した。

 この点に対しては,調査会の委員からの大きな異論はなく,概ね了承された。

2)権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入