図1 「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第1回会合が開催された
図1 「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第1回会合が開催された
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 内閣官房の知的財産戦略本部は2008年4月24日,「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第1回会合を開催した(図1)。この専門調査会は,2008年3月13日に開催した知的財産戦略本部の第19回会合で設置が決まったもの。「デジタル技術の発展やネットワーク化の浸透に対応した知財制度の課題と対応の在り方に関する調査・検討を行う」ことを趣旨とする。専門調査会の会長には2008年3月に東京大学を退官した法学政治学研究科・法学部 元教授の中山信弘氏(西村あさひ法律事務所 顧問)が就任した。

ネット時代の著作権制度の役割とは

 第1回会合で事務局は議論のたたき台として二つの論点を挙げた。具体的には,(1)デジタル・ネット社会における著作権制度の役割をどのように捉えるべきか,(2)デジタル・ネット社会の進展の中で著作権制度が不適合を起こしている点はどこにあるか,またその具体的な問題はどこに生じているか,である。

 (1)については著作権制度の考え方として,創作者の権利は最大限に尊重する必要があるという自然権的アプローチと,文化の発展という大目的と創作者の利益との調和を重視するという文化政策的アプローチがあるとした。その上で,デジタル・ネット社会における著作物の利用を考えたときに著作権制度の役割をどのように捉えるべきかと問題提起した。

 (2)については具体的に起こっている問題の例として,他人の創作物を相互に利用し合いながら創作するといった新しい形態への対応が明確でない,新しい技術やビジネス・モデルの出現に柔軟に対応できる規定がなく新たな動きが萎縮しがちである,検索エンジンなどのインターネット関連事業で不可避的に生じる複製や一時的な蓄積などの許容が難しい,インターネット上の違法な利用への対策が不十分である,などを挙げた。

「フェアユース」の必要性を議論

 第1回会合は,これらの論点について専門調査会の委員が自由に意見を述べるという形式で進められた。

 (1)については,「著作権制度は著作者と利用者の調整役である」「創作者が創作意欲を持てるような状況を生み出すことが著作権制度の役割である」「無体財産権に対する評価が低い現状では,権利の重要性をきちんと示すべきである」といった意見が出た。

 また(2)については,「メディア業界内の商慣習や著作権処理の手続きが,新しいプレイヤーの参入の障壁になっている。もっと柔軟な仕組みにする必要があるのではないか」「米国の著作権法で用いられている『フェアユース』の考え方は,新しいことを始めようとする人が勇気を持てる制度になっている」「柔軟に対応できるようにするという方向に議論が進むと予想されるが,著作権法の中で個別的・例外的なルールを明確にした方が法的な判断を下しやすい」「権利だけを規定して,権利濫用とフェアユースに関する一般条項を追加するという形態だと,何が著作権法違反に当たるかが分からず,かえって行動を萎縮させる結果になるのではないか」などの意見が交わされた。

 多くの委員が言及したフェアユースについて会長の中山氏は,「新しいビジネスを始めようとする企業らが『莫大な投資をしてでも勝ち取る』という覚悟を持つようになればうまく行くだろう。ただし,米国でフェアユースの考え方が機能しているのは,長年の判例が積み重なっているからこそだろう。著作権の定義と濫用とフェアユースに関する一般条項だけで著作権法を構成するのは,判例が存在しない日本では難しい。『現在の制限規定+フェアユースの規定』という形を考えている委員が多いのではないか」とした。

 中山氏は,「『著作権法があるからやっちゃいけない』という状況だと,産業も著作物も失ってしまうことになりかねない。著作権法が新しい産業の邪魔になってはいけない。著作物は利用されなければ利益を生まないという観点に立って,いかに創作者に還元するかを議論するべきだろう」とし,インターネット以前と以後の著作権法のあり方は大きく異なるはずだとの考えを示した。

 この専門調査会は,1カ月に1回程度の頻度で会合を開き,そこでの検討結果を2008年末までに取りまとめる予定。次回は,知的財産戦略本部が2008年6月中旬にまとめる予定の「知的財産推進計画2008」に盛り込む必要があると考えられる論点について集中的に議論するという。