Suraj Shetty氏
Suraj Shetty氏
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 ネットワーク機器分野で世界最大手の米Cisco Systems,Inc.。同社は今,無線ネットワーク関連事業に力を注いでいる。2007年に,WiMAX用伝送装置を手掛ける米Navini Networks社を買収したほか,2008年6月にはIntel社など6社と共同でWiMAXの特許プール構築に向けた団体「Open Patent Alliance(OPA)」を立ち上げた。このほか,いわゆる3.9Gである「LTE」関連事業にも,強く期待しているという。Cisco社はなぜ,WiMAXやLTEへの取り組みを加速させているのか。同社SP MarketingのVice PresidentであるSuraj Shetty氏に聞いた。

――Cisco社にとって,無線ネットワーク技術とはどのような位置づけなのか?

Shetty氏 われわれは,さまざまな手法を通して,ユーザーが常にネットワークに接続されている状況を作っていくことを目指している。いわば,「コネクテッド・ライフ」の実現だ。その中で,モバイル技術は非常に重要になる。ここで重要なのは,当社にとってモバイルというのは,「ハンドセット」だけを意味するわけではないことだ。当社の提供するすべてのセグメントのソリューションにおいて,モバイルが関わってくる。それは,コンシューマからスモールオフィス,そしてエンタープライズまでに至る。他社はモバイルといえばハンドセットを想像すると思うが,我々はさまざまな技術を組み合わせて,モバイル環境でのコネクテッド・ライフを実現する。

 当社はこれまで,特にエンタープライズ分野で無線LANに多くリソースを割いてきた。さらに今後は,ブロードバンドの延長技術としてWiMAXへの投資を増やしている。このほか家庭内の無線LAN構築などにも,当社の子会社であるLinksys社の製品を通じてソリューションを提供している。

――CiscoがWiMAXやLTEに期待するのは何故か?

Shetty氏  無線LANやWiMAX,そしてLTEも,すべてIPベースの技術である。これは,我々のルータやスイッチ製品にとって,適合性が非常に高いことを意味する。当社は創業当初から「IPカンパニー」を標榜してきた。移動体通信技術がどんどんIPベースに進化していくことで,我々の役割はさらに高まって行くと見ている。

 WiMAXやLTEといったIPベースの技術の登場は,当社だけでなく市場全体にメリットがあると考えている。様々なアプリケーションを生み出し得るからだ。これによりサービス・プロバイダは,「エクスペリエンス・プロバイダ」とでも呼べるような,新たな付加価値事業を運営できるようになるだろう。オールIPの世界になるということは,はっきり言えばなんでもできるということだ。アプリケーションを制限するのは,人々の想像力の限界でしかない。想像力の制限を開放すれば,どんなアプリケーションもモバイル環境で実現できるようになるだろう。我々は,サービス・プロバイダが,エクスペリエンス・プロバイダに変貌することをサポートしていきたいと考えている。その際には,特定の伝送技術に限定することなく,あらゆるIPベースの技術を用いて行く考えだ。

――WiMAXやLTEにとって,アプリケーションは何か?

Shetty氏 国や地域によって大きく異なる。例えば新興国には,ブロードバンドのインフラが構築されていない場合がほとんどだ。こうした地域では,インターネットにアクセスすることこそが,重要なアプリケーションである。ここに,WiMAXへの大きな期待がある。さらに将来は,こうした新興地域の市場でも,モバイルにおけるビデオ視聴やテレビ会議のアプリケーションが出てくるだろう。

 一方で先進国の場合には,既に高速のブロードバンド回線がある。こうした地域では年齢層によっても異なるが,やはりYouTubeやfacebookなど,ユーザーがコンテンツを創出するアプリケーションの動向がカギを握りそうだ。我々の最近の調査では,モバイル環境におけるインターネット・ビデオのトラヒックが今後爆発的に成長するという予測を得ている。いずれにしても重要なことは,「新たな帯域がアプリケーションを創造し,そしてアプリケーションがさらなる帯域を求める(Bandwidth creates Application, Application creates Bandwidth)」ということだ。新たなアプリケーションが必ず生まれてくる。

――WiMAXやLTE,HSPAの導入についてどう見ているか?

Shetty氏 新興市場ではWiMAXは非常に大きな存在を示すことになりそうだ。例えばインドは2億5000万以上の携帯電話加入件数があるが,ブロードバンドの加入件数は300万~400万にとどまっている。WiMAXはこうしたブロードバンド回線を実現するものとして期待されている。

 一方で先進国の旧来から存在する事業者は,まずはWCDMAやHSPAをモバイルの高速化に利用するだろう。必要であれば,そのあとでLTEが登場するという格好になると思う。


LTEやWiMAXなど次世代通信に関する特集記事を,日経エレクトロニクス9月8日号に掲載予定です)。