Hon Hai社のトップ,郭台銘(Terry T. M. Gou)氏のインタビューの後編。前回は,今後Hon Hai社が目指す方向を聞いた。今回は,郭氏が分析する同社の強さの源泉や,日本メーカーとの協力体制について語る。同氏が重視する企業文化の幾つかはもともと日本から学んだとした上で,今の日本に足りない要素を考察する。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.114-116から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

日本文化を参考に

―― 他のEMS企業を押しのけた強さの根源には,何があるのか。

 何よりも企業文化だと思う。特に私が重視するのが四つの文化だ。

● 辛勤工作的文化(勤勉に働く文化)
● 負責任的文化(責任を持つ文化)
● 団結並且資源共享的文化(団結し,互いの資源を共に享受する文化)
● 有貢献就有所得的文化(貢献すれば,それだけ所得をもらえる文化)
鴻海精密工業 董事長 郭台銘氏

 特に最初の二つ,勤勉と責任の文化は日本から得たものだ。私は昔から日本をたびたび訪れ,文化も一緒に学んだ。初めて日本に来た時,寮で畳の部屋に住んだことがある。その寮では畳を毎日磨く日課があり,そのためどの部屋も畳がきらきらと輝いていた。日本人の勤勉さに感じ入った。

 団結し共有する文化は,今の日本には乏しいかもしれない。日本企業では,事業ユニットの間で協力関係がないことがあると聞く。我々は幾つかの事業ユニットを持ち,それぞれが製造装置などリソースをやりとりするなど,緊密な協力関係にある。

 貢献した従業員に厚く報いる文化は,日本企業には欠けていると言わざるを得ない。我々だけでなく多くの台湾の企業は,成果を上げた分だけ従業員に高い見返りを与える制度を整備している。例えば業績が良ければ,すべての社員に多額のボーナスをふるまう。多くの日本企業では,優秀な成績を挙げても社長賞が関の山だ。