事業の規模や分野を取り上げた前々回,金型技術にフォーカスした前回に引き続き,今回はHon Hai社のサプライチェーンや風土について解説する。Hon Hai社は,製造技術のみならずSCM(supply chain management)でも高い評価を受けている。企業風土は,「ハードワーク」「軍隊並みの規律」といった言葉で表される。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.107-110から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

(4)サプライ・チェーン
政府や部品メーカーの協力で速く・安く

 Hon Hai社が強いのは製造技術だけではない。部品調達や流通,生産管理といった,SCM(supply chain management)の領域でも評価が高い注14)

注14) 「Hon Hai社は,SCMのソフトウエアを社内でかなり作り込んでいる。例えば,Dell社などが提供するXMLベースのデータ交換システムに,日本メーカーに先駆けて取り組んでいた」(Hon Hai社に詳しいコンサルタント)。

 Hon Hai社は,深セン工場に納入される部材や最終商品の通関手続きを自社工場内で行える特別待遇を受けている注15),2)。これにより,部材や最終商品の流れが手続きにより滞留することを防げる。Hon Hai社の場合,製造ラインの前後にカメラを取り付け,別室で税関職員が部材や最終商品の数量をチェックしている。こうした優遇を受けられるのも,Hon Hai社が輸出規模で中国最大だからだ(図8)。工場を出た製品は,GPSで運行管理された輸送トラックで空港や港湾に運ばれ,そこから消費地の小売店やエンド・ユーザーに直送される。

注15)ここでは,深セン工場がある華南地区の保税制度「来料加工」に伴う通関業務のこと。この制度を利用すると,海外から輸入した部材に関税がかからない。ただし,製造した商品は全量輸出する必要があり,中国国内では販売できない。このため部材の輸入,商品の輸出について,その出荷量を管理する通関手続きが必要になる。
図8 輸出額は中国最大級  中国政府がHon Hai社製品の通関などを手助けするのは,同社が中国で最大級の輸出企業だからだ。中国からの輸出額が多い企業を見ると,Hon Hai社傘下の鴻富綿精密工業が他社を大きく引き離している。企業グループ単位で見ても,Hon Hai社はトップとみられる。図は2006年5月2日付の日経金融新聞の記事を基に本誌が作成した。
図8 輸出額は中国最大級  中国政府がHon Hai社製品の通関などを手助けするのは,同社が中国で最大級の輸出企業だからだ。中国からの輸出額が多い企業を見ると,Hon Hai社傘下の鴻富綿精密工業が他社を大きく引き離している。企業グループ単位で見ても,Hon Hai社はトップとみられる。図は2006年5月2日付の日経金融新聞の記事を基に本誌が作成した。 (画像のクリックで拡大)