前回までは,Hon Hai社の強さの秘訣をさまざまな角度で検証してきた。今回と次回は,Hon Hai社特集の締めくくりとして,同社を率いる郭台銘(Terry T. M. Gou)氏のインタビューをお届けする。郭氏がマスコミに登場するのは極めて希であり,本誌掲載から2年たった今も貴重な資料といえる。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.111-114から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)
鴻海精密工業 董事長 郭台銘氏
郭台銘Terry T. M. Gou 鴻海精密工業 董事長Hon Hai Precision Industry Co.,Ltd.,Chairman & CEO

――高い成長率を維持すべく,次はテレビの製造を手掛けるという話も聞く。

 テレビをはじめとする民生機器の中身は,パソコンなどコンピュータ機器のそれに急速に近づいている。このため,民生機器の事業構造や価格の変化が,コンピュータ機器と同じように早く,かつ鋭くなった。その結果,パソコン製造で培った我々の強みが民生機器にも生かせるようになった。

 このことを,私はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木健氏から,かなり以前に学んだ。民生機器の中でもゲーム機は,当時からコンピュータに近かったからだ。プレイステーション事業を統括していた彼に,私が「あなたの競争相手は任天堂か,それともセガか?」と聞いたところ,久多良木氏は首を振り「どちらも違う。米Intel Corp.と米Microsoft Corp.だ」と答えた。

 確かに我々は,液晶テレビに参入する計画を練っている。OEMかODMの形になるだろう。製造するのは中国,インド,そして欧州市場に向けた製品になる。今後,液晶テレビは,表面加工を含めた筐体デザインが重視される,いわば家具のような存在になるだろう。筐体の製造を得意とする我々の強みがますます生きる。

――民生機器事業を取り巻く環境が激しく変化するようになった背景は。

 半導体プロセスで製造する部材の割合が増えたことにある。例えば,CRTテレビの製造に,半導体プロセスが寄与する割合はそれほど高くなかった。ところが,液晶テレビには数多くの大規模LSIが載り,かつパネルそのものも半導体プロセスで製造する。このため,半導体と同じようにパネルにも供給過剰と供給不足が交互に訪れ,価格のアップダウンが激しくなる。先月1000米ドルだった液晶パネルの値段が今月は600米ドルになるといった動きを示す。