Hon Hai社は日本の民生機器メーカーと競合する存在というよりも,日本企業が世界市場で活躍するためのパートナーととらえた方が良さそうだ(前回参照)。今回は,Hon Hai社のような巨大EMS企業とうまくつきあっていく方法を検討する。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.96-99から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

生産技術は必要

 EMS企業を臨機応変に使う体制を実現するには,二つの課題がある。第1は,Hon Hai社のような巨大EMS企業がうまみを感じるだけのまとまった生産数量を確保することである注12)。他社との事業再編といった選択肢も含めて「自らの事業規模を拡大し,巨大EMS企業を味方につけるべき」(複数のアナリスト)。日本の民生機器メーカーの中でも,世界市場で抜きんでた競争力を備え,出荷数量を稼ぐ家庭用ゲーム機のメーカーは,既にHon Hai社の重要な顧客になっている。この姿を目指すべきといえる。

注12) Hon Hai社が好んで受注する商品は,単価などによって大きく異なるものの,1機種で10万台以上の出荷が見込める案件といわれている。

 第2は,商品企画や,EMS企業には手掛けきれない最先端分野の研究と販売力の強化に,リソースをシフトさせることである(図6)。その代償として,EMS企業と業務が重なる部門に大なたを振るう決断が必要となる。特に製造部門は,自らが生み出したい商品にとって,どうしても必要な場合だけ抱えるという割り切りが必要だ。製造部門は,持つだけで固定費を一気に押し上げるという事実から,どの企業も逃れられない。

図1 巨大EMS企業を味方につける方法 Hon Hai社に代表される巨大EMS企業は,工場の稼働率を高めるため大量の受注を好む傾向が強い。そのニーズにエレクトロニクス・メーカーが応えるには多くの場合,事業規模の拡大が必要になる。世界トップ級のシェアを持たなければならない。その第一歩は何といっても商品力を高めること。こうした企業努力を通じていったんヒット商品を生めば,当初は自らが担っていた製品の設計・製造業務を巨大受 託企業に移管してコストを減らすことで,さらに事業規模を拡大する契機になる(a)。 このためには,設計・製造委託の進捗に合わせて,自社のリソースを配分する重点 を設計や試作から,研究や商品企画あるいは販売に移すことも必要になる(b)。
図1 巨大EMS企業を味方につける方法 Hon Hai社に代表される巨大EMS企業は,工場の稼働率を高めるため大量の受注を好む傾向が強い。そのニーズにエレクトロニクス・メーカーが応えるには多くの場合,事業規模の拡大が必要になる。世界トップ級のシェアを持たなければならない。その第一歩は何といっても商品力を高めること。こうした企業努力を通じていったんヒット商品を生めば,当初は自らが担っていた製品の設計・製造業務を巨大受 託企業に移管してコストを減らすことで,さらに事業規模を拡大する契機になる(a)。 このためには,設計・製造委託の進捗に合わせて,自社のリソースを配分する重点 を設計や試作から,研究や商品企画あるいは販売に移すことも必要になる(b)。 (画像のクリックで拡大)

 ただし,日本の民生機器メーカーから生産技術者がいなくなっては,かえって商品の競争力を弱める。ライバルと同じEMS企業を使っても,より強い指導力を発揮できればより安い製造原価を実現できる。実際,事業分野は異なるが,ある海外のファブレス半導体メーカーは工場を売却してもプロセス技術者を抱え続け,その技術者をファウンドリーに配置している。投入したい商品を,狙った時期に想定通りの価格で造るためだ。