Hon Hai社は,金型や様々な部品を内製する体制によって「速い,安い,うまい」サービスを作り上げた(前回参照)。同社のサービスが注目を集める背景には,デジタル民生機器市場の変化がある。今回は,時代の追い風を受けてHon Hai社が向かう先と,日本メーカーとの関係を考察する。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.94-97から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

一気呵成かせいに売るために

 Hon Hai社が莫大な受注を集められる背景には,「デジタル化によって民生機器の商品寿命が短くなった時代の追い風がある」(みずほ証券 エクイティ調査部 電子部品担当 シニアアナリストの大森栄作氏)。

 スチル・カメラは「銀塩機なら1モデルが1~2年持ったが,デジタル・カメラの場合,よほどのヒット商品や高価格品でなければ,ほぼ半年ごとにモデルチェンジさせざるを得ない。値下がりで利益が出せなくなるからだ」(カメラ・メーカーの商品企画担当者)。

 つまり民生機器を手掛ける企業にとって,大量にタイミングよく出荷し一気に売り抜けることが利益を得る絶対条件になっている。しかも「デジタル民生機器の多くはパソコン並みに利幅が薄い上に製造原価に占める部品代が高い」(デジタル民生機器ベンチャーの幹部)。大量購買や大規模な組み立てによって原価を減らす必要がある。その点,機器メーカーにとって莫大な部品を購入し,組み立て工程を中心に20万人を超える人員を擁するHon Haiグループは魅力だ。

デジカメや液晶テレビに触手

 競合他社の追従を許さない事業形態と技術力を備え,民生機器のデジタル化時代を味方に付けたHon Hai社の勢いは,衰える気配がない。同社CEOのGou氏は,2006~2008年度に連結売上高を年率3割のペースで伸ばし,2008年度に2兆台湾ドル(1台湾ドルを3.5円とすると7兆円)に到達することを目指す。つまり2008年度には現在の東芝の売上高を超え,ソニーに迫ろうとしている注7~8)

注7) Hon Hai社は,既に台湾で最大の売上高を誇る企業になっている。2005年度の売上高の成長額は1.4兆円に達する。この成長額は台湾TSMC社の年間売上高の1.5倍に達する。TSMC社の2005年度における連結売上高は9067億円。

注8) この目標をHon Hai社が達成できるかアナリストの中には疑念を抱く向きもある。ただ同社のGou氏がCEOを退くことを予定している2008年までは,高い成長率を維持するとの見方が強い。なおGou氏は1950年生まれと,さほど高齢ではない。それにもかかわらずCEOを退く理由を,同氏は「失敗の経験をさせるためだ。若いときほどよく学べるし,やり直すチャンスもある」と説明する。

 この成長に向けてHon Hai社は,既存事業の拡大に加えて,企業買収などによる新規事業分野への参入を進める考えだ。「機構・光学・電子の整合を目指す」(Gou氏)6)。こうした同社の近未来を示す象徴が,2006年6月に発表したカメラのEMS企業,台湾Premier Image Technology Corp.(普立爾科技)の買収である。Premier社は,2006年にデジタル・カメラの世界生産台数シェアで3位または4位になると目されている。