そもそも,BRICs諸国をはじめとする今後の成長が有望な市場でこれから本格化する普及品は,人件費やあらゆるインフラ・コストが高い日本での設計・製造が非常に難しい。このため日本勢の民生機器としては現在のところ世界シェアが高いデジタル・カメラでも,「どのように利用するか」を判断しなければならない注11)。デジタル・カメラ市場は現在,日本国内の縮小ムードをよそに,台湾勢が造る低価格機がBRICs市場などで販売台数を伸ばしているからだ。2006年の世界生産台数は「1億台の大台に乗る可能性が見えてきている」(テクノ・システム・リサーチの三輪秀明氏)。

注11) Premier社は2006年からソニーに普及価格帯のデジタル・カメラの納入を始めている,とみるアナリストもいる。

 逆に,富裕層に向けた商品は,EMS企業に比べてコストが高い自社の設計/製造部門を使い,唯一無二の特徴を備えることで,自社のブランド力を高める。こうした開発・製造方法の使い分けが,日本の民生機器メーカーにとって必要になる。

参考文献
6)張,「虎与狐 郭台銘的全球競争策略」,天下遠見出版,2005年1月.

直接競合はしないHon Hai社と日本の民生機器メーカー

図A-1 低い販管費 Hon Hai社の販売費および一般管理費(販管費) が売上高に占める割合(2005年度)は,日系大手電機メーカーはもちろん,ほぼ受託専業の船井電機よりも低い。売上高が大きいこと,台湾企業の人件費の水準が低いことなどが寄与して いる。
図A-1 低い販管費 Hon Hai社の販売費および一般管理費(販管費) が売上高に占める割合(2005年度)は,日系大手電機メーカーはもちろん,ほぼ受託専業の船井電機よりも低い。売上高が大きいこと,台湾企業の人件費の水準が低いことなどが寄与して いる。 (画像のクリックで拡大)

 Hon Hai社が,日本の民生機器メーカーとって競合商品を直接消費者に販売するライバルになる可能性は低い。そうした事業に同社自身「関心がない」(Gou氏)。

 Hon Hai社が2005年度に5.6%という営業利益率を得られているのは,「Foxconn」ブランドでパソコンのメイン・ボードなどを販売する以外,自社ブランド品を手掛けないためだ。Hon Hai社の連結売上高に占める販売費および一般管理費(販管費)の割合は4%。一方,日本の大手電機メーカー9社の平均は22%。もし,Hon Hai社が日系の大手並みに自社ブランド品を売るため販管費を増やせば,Hon Hai社は赤字に転落する(図A-1)。

―― 次回へ続く ――