「iPod nano」,「ニンテンドーDS」,「PSP」…。Hon Hai社には,著名なヒット商品の製造依頼が次々と舞い込む(前回参照)。同社に委託が集中するのは,「速い,安い,うまい」サービスを実現したからである。今回は,そのようなサービスを実現するためにHon Hai社が構築した独自の事業形態を探る。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.91-94,p.100から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

 世界中の大口顧客を引き付けるHon Hai Precision Industry Co., Ltd.(鴻海精密工業,通称Foxconn)。その生産量は,圧倒的だ(図1)。例えばHon Haiグループで携帯電話機事業を統括する香港Foxconn International HoldingsLtd.(富士康国際)は,世界シェア1位のフィンランドNokiaCorp.と2位の米Motorola,Inc.から端末の組み立てや基板実装などを受注している1~3)


図1 日本勢を圧倒する製造能力
大口顧客を次々と得たHon Hai社の製造能力は,日本の民生機器メーカーの水準を超越している。(イラスト:まつもと政治)

 両社のFoxconn International社への委託台数は,2005年は共に1800万台,2006年はNokia社が4150万台,Motorola社が4000万台に及ぶと予測されている注1),4)。2006年の計8150万台という予測台数は,世界で出荷される携帯電話機の約1割をFoxconn International社が製造することを意味する。もちろん,日本の携帯電話機メーカーの生産規模は,足元にも及ばない。

注1) 香港CSC Securities (HK) Ltd.(群益證券)は,Foxconn International社以外への生産委託状況も予測している。これによるとNokia社は2005年,フィンランドElcoteq社に1億1200万台,米JabilCircuit社に2800万台を委託した。2006年はElcoteq社が1億2600万台,Jabil社が3150万台を引き受ける。Nokia社による委託台数全体に各社が占める割合は,2005年,2006年ともElcoteq社とJabil社がそれぞれ40%,10%である一方で,Foxconn International社は7%から10%に高まるとみる。Motorola社については,2005年,台湾CompalCommunications(華寶通訊)社に3800万台,シンガポールFlextronics社に1800万台委託した。2006年はCompal Communications社が6400万台,Flextronics社が3000万台引き受ける。Motorola社による委託台数全体に各社が占める割合は,2005年,2006年ともCompal Communications社とFlextronics社がそれぞれ32%,15%だが,Foxconn International社は15%から20%に高まるとみる。

 パソコン・メーカーを含め,民生機器を手掛ける各社による「Hon Hai詣で」は今後も全く止む気配がない。2006年の年末商戦で激突する任天堂の「Wii」とソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション 3」についても,Hon Hai社が製造を請け負うようだ。年間に数百万台以上の出荷が見込める機器の製造については,根こそぎHon Hai社が委託契約を取り付けている状況である注2)

注2) 米国でHon Hai社は非常に高い評価を受けている。米Businessweek誌が発表した世界のハイテク・通信関連企業のランキング「The Info Tech 100 Companies」でHon Hai社は2005年,2006年と連続して第2位を獲得している。一方,日系企業では2005年において42位の日本電産が,2006年は5位のソフトバンクが最高位である。