社長就任後1年に合わせて開かれた記者懇談会にて

敵対関係ではない,使わせてもらう

ソニー 代表執行役 社長 兼 エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏

 Hon Hai社には現実に一部の製品の製造を頼んでいるし,表面実装機を納めてもいる。それを(質問者が言うように)協調と呼べばよいのか,すぐには適切な言葉が思い浮かばないが,Hon Hai社と我々は決して敵対する関係ではない。Hon Hai社は金型について日本の技術者から指導を受けたこともあって技術力が高い。この力をソニーも利用させてもらう。ここでソニーとHon Hai社は,ガチンコ勝負しているわけではない。

 Hon Haiグループがいろいろな部品に事業領域を広げていることは承知している。それに危機感を全く抱かないといえばうそになるが,当社はHon Hai社に対して優位性をしっかりと保持しているし,それがこれからも可能だと信じている。

 中国はかつて低賃金を生かした製造拠点だった。今は,現地技術者の優れた能力を開発に活かすことに我々の力点が移っている。当社は現在,上海や大連に拠点を構えて,優秀な人材の取り込みを図っている。

 そう遠くない将来,中国は「世界の工場」から「世界の市場」に移行する。設計から製造,販売まで,すべてが中国内で完結する。このとき日系企業は,キー・コンポーネントなどの生産財を中国に供給する。日系企業の生産財は依然として,いやむしろ,これまで以上に高い競争力を保持している。中国と日本,さらには韓国,台湾企業の協調によって,電機産業は東アジア圏でますます発展するだろう。 (談)

社長就任に合わせて開かれた記者懇談会にて

EMS企業を使う気はない

キヤノン 代表取締役 社長の内田恒二氏

 台湾や中国のEMS企業から頻繁に売り込みを受けている。実際,そうした企業は我々の商品を手掛ける技術を持つのだろう。だが,全体のコストを考えると,こうした企業を活用する気にはならない。

 新機種の製造コストを抑える最良の方法は,設計段階でコストダウンを可能にしておくこと。それには,製造部門から設計部門への密なフィードバックによって,そのノウハウを蓄積していく必要がある。

 今後キヤノンは,製造工程の一部を機械に置き換える「自動化」を進める。セル生産の各作業のうち,人手では難しい工程だけを自動化することで,コストダウンと品質の向上の両方を狙うものである。(談)

本誌の取材に応えて

垂直統合・中国集中では勝てない

香港Elcoteq Asia Ltd.,APAC Business Development
Sales & Marketing DirectorのHenry Gilchrist氏注1)

 私は,Hon Hai社のような垂直統合体制が長期的に成功するとは思わない。我々が採用する「水平統合体制」の方が有利だ。なぜなら傘下に部品メーカーを抱えず,社外の部品メーカーと緊密に連携するので,常に優れた技術を持つパートナーを選べるからだ。垂直統合体制のEMS企業が成功するという考えは,一時の幻想にすぎない。

 Hon Hai社が現在,工場を中国に集中させていることにも疑問がある。中国以外の市場に輸出する際,輸送費や関税のコストは意外に大きい。だから当社はEMS企業の中で早くからインドに進出した。重要なのは,消費地に近い所に生産拠点を用意すること。日本の携帯電話機メーカーは,重要部品を内製できる技術力と,我々のように世界に展開するEMS企業を活用し,海外市場に進出すべきだ。 (談)

注1)Elcoteq社は,フィンランドに本拠を置く,携帯電話機を得意とするEMS企業。

―― 次回へ続く ――