わずか2週間前に富士通のLSI事業再建への思いを語っていた,小野敏彦氏。インタビュー時に,日経BP社映像グループの柳生貴也が撮影。
わずか2週間前に富士通のLSI事業再建への思いを語っていた,小野敏彦氏。インタビュー時に,日経BP社映像グループの柳生貴也が撮影。
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 『NIKKEI MICRODEVICES』は,4月8日付で富士通マイクロエレクトロニクス代表取締役社長を「一身上の都合により」(同社)急遽辞任した小野敏彦氏に,新会社設立直後の3月24日にインタビューしていた(Tech-On!関連記事)。その際,同氏は富士通のLSI事業再建に向けた抱負を熱く語っていた。ここではその内容を紹介する。(聞き手は,大下 淳一=NIKKEI MICRODEVICES)

――富士通はなぜ今,LSI事業の分離に踏み切ったのでしょうか。

<小野氏> LSI事業と富士通本体の主力であるサーバー関連事業では,時間軸が大きく異なるためです。LSI事業はユーザーの思惑に左右されやすく,1カ月先の状況さえ確実には読めません。これに対し,サーバー関連事業はユーザーとの契約に基づくため,安定しています。そこで,LSI事業を独立させて裁量権を強め,経営判断を迅速化することを狙いました。

――もっと早くLSI事業を分離すべきだったのではありませんか。

<小野氏> LSI事業の分離については,4~5年前から社内で議論してきました。従来はLSI事業とサーバー関連事業の相乗効果を重視する声が多かった。サーバーがLSIの技術開発をけん引し,その成果を民生機器向けに有効に展開できたからです。ここへ来て,そのメリットよりも時間軸の違いを重視する声が増えてきました。

――その背景は。

<小野氏> 汎用LSI(ASSP:application specific standard product)事業が2008年度に黒字化する見通しとなったことが大きいと思います。いよいよASSP事業を本格的に展開するフェーズに入ったのです。カスタムLSI(ASIC:application specific integrated circuit)に続く事業の柱として,ASSPには4年ほど前から力を入れてきました。これまでは先行投資によって赤字が続いていましたが,これからは収穫期に入ります。2009年度の全社売上高の40%を,ASSPを含む汎用品で稼ぐ計画です。

――ASSP事業の強化策は。

<小野氏> 注力分野である画像,無線,セキュリティで強いソフトウェアを育てることがASSPの強化につながると考えています。そこでは,サーバー関連事業で培ったソフトウェア開発力が生きます。関連子会社6~7社を主体に,民生機器向けソフトウェアの開発に注力しています。

――そうした取り組みの成果は,具体的に出始めていますか。

<小野氏> 先に挙げた3分野では,パソコン(PC)や携帯電話機,デジタル・カメラといった主要なアプリケーションでわれわれのASSPが採用され始めています。画像系では,デジタル一眼レフ・カメラ向けの画像処理LSI市場で世界シェアの約50%を握りました。業界標準のH.264対応のコーデック向けLSI市場でも世界シェア首位です。

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