写真1:斜めから見た下部筐体上面のアルミ材(アッパー)の一部。キー間での厚みは1.9mm(写真撮影:中村宏。以下同じ)
写真1:斜めから見た下部筐体上面のアルミ材(アッパー)の一部。キー間での厚みは1.9mm(写真撮影:中村宏。以下同じ)
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写真2:斜めから見たキーボード本体の一部。キートップの下が部分的に透けて,下からの光が通るようになっている
写真2:斜めから見たキーボード本体の一部。キートップの下が部分的に透けて,下からの光が通るようになっている
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写真3:遮光シート
写真3:遮光シート
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写真4:透明な導光板。光を拡散させるために細かいスリットが空いている。左端の5つの縦長の穴にLEDがはまる
写真4:透明な導光板。光を拡散させるために細かいスリットが空いている。左端の5つの縦長の穴にLEDがはまる
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写真5:絶縁シート。左端の金色の部分にLEDが縦に5つ並んでいる
写真5:絶縁シート。左端の金色の部分にLEDが縦に5つ並んでいる
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 MacBook Airのキーボードの分解によって,米Apple Inc.が何にこだわり,何にこだわらなかったのか,その一端が浮かび上がってきた。

 Apple社がキーボード周辺でこだわったと考えられるのは,
1.筐体の薄さ
2.筐体の剛性
3.キーの周囲を光らせる
4.キーを押してもたわまない
の4点だ。

 逆にこだわらなかったのは,
1.部品点数
2.組立工数
3.重量
4.キーボードの交換
と言える。

 こだわったポイントは一般にはトレードオフの関係にある。すなわち,薄さを追求すると剛性が損なわれる。キー周囲を光らせる機構を入れたら厚みが増す。キーボードがたわまないように支える剛性のある部材を入れたら,やはりその分,厚みが増してしまう。こうした相矛盾する目標に対して,Appleはどのような解を出したのか。

 お時間のある方は,まずは国内大手パソコン・メーカーの技術者たちによるキーボード分解の模様をご覧いただきたい。キーボード裏のねじをはずしている部分はノーカットでお送りする。なお,分解に立ち会った日経エレクトロニクス分解班の音声も一部に入っている。

動画 Air分解 第3部(約5分3秒の動画)
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 キーボードを解析して確認できた点は次の4点である。

5層構造のキーボード

 MackBook Airはこだわりの4点を実現するために,個別のパーツを下部筐体上面のアルミ材(アッパー,写真1)に取り付ける構造を採っている。

 アッパーのすぐ下にはキーボード本体(写真2),そして上面が黒い遮光シート(写真3),透明でところどころにスリットが入った導光板(写真4),最後が絶縁シート(写真5)である。こうした取り付け構造のため,店頭でのキーボード交換は事実上不可能と考えられる。

アッパーは1.9mm厚のアルミ剛体

 キーとキーの間にもアッパーがある。格子の隙間からキーが頭を出しているイメージだ。格子部分でのアッパーの厚みは1.9mm。キーボード部分全体を開けてしまうよりも,特にねじりに対しての強度は出せる。もっとも,その分,重さは増えてしまう。ちなみにアッパーの重量はタッチパネルと6本のフレキシブル基板,赤外線モジュール込みで174gだった。

 このアッパーにはキーボードだけでなく,メイン基板やLiポリマ2次電池モジュール,1.8インチHDDなどほとんどの部品が取り付けられている。これを曲面で強度を持たせた下側のアルミ板で覆っているイメージだ。

キーボードはアッパーから引っ張る

 キーボードの下にはIntel Core 2 Duoなどを搭載したメイン基板がある。キーボードを下側で支えようとすると基板との間にしっかりした支えを入れる必要がある。MacBook Airでは,逆に剛性のあるアッパーにネジを40本以上使って下から固定することで,キーを押してもキーボードが沈まないようにしている。格子の部分でもネジ止めしているため,キーボードの中央部分でもたわまない。

キー周辺は下側の導光板で光らせる

 飛行機の中などでもタイピングしやすいように,MacBook Airはキーが光るようになっている。分解前はキー1つ1つにLEDが付いている可能性もあると日経エレクトロニクス分解班は考えていた。だが,実際に分解してみると,光源は左端に縦に並んだ5つのLEDだった。

 導光板に横から光をあて,光らせたい部分の導光板にスリットを開ける。不要なところは光らないように遮光シートで覆うといった構造を採用していた。厚みをとらずに発光させることができる。もっとも,発光状態を確認する前に分解してしまったので,実際に光る様子を見ていない。

残る疑問

 MacBook Airはこのように厚みを押さえながら,全体とキーボードの剛性を確保し,なおかつキー周辺の発光も実現していた。ただし,ネジを含めた部品点数は多くなり,それを留める工数もかかっているはずだ。剛性を出すアッパー自身の重量もある。

 分解によってすべての疑問が解けたわけではない。まず,キーボード本体を固定するにあたって,40本以上もの小ネジを使うほかに手立てはなかったのか,という点である。工数がかかるだけではない。ここの部分のネジにはゆるみ留め剤がついていない。デスクトップ・パソコンよりも振動が加わる場合が多いノート・パソコンでは,使用中にネジがゆるんでくる可能性が高くなる。分解したMacBook Airでは40本のネジの中には締め付けがゆるく,ドライバですぐにはずせるものもあった。ネジが多いほど,どれか1本のネジがはずれてしまう確率は高まる。

 アッパーに厚さ1.9mmも使うなら,別のやり方でキーボードを固定する方法もあったのではないだろうか,という指摘も技術者からあった。

 アッパーの加工方法については技術者の間で意見が分かれた。金型を使ったアルミ・ダイキャストなのか,アルミ板の削り出し加工なのか,という点である。削り出しであれば,精緻な加工ができるが加工費がばかにならない。とはいえ,ダイキャストでここまで細かい加工ができるのか。日経エレクトロニクス分解班も加わった議論は分解後の懇親会場でも続いた。。。

 その後,日経エレクトロニクス分解班による取材および検討では,少なくともアッパーのベースはアルミ・ダイキャスト。費用,加工時間からアルミ板を一から削りだしたとは考えにくいという結論になっている。

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