「nano tech 2008」では,カーボン・ナノチューブ(CNT)を,塗料の一種として用いた例の出展が相次いだ。高性能のトランジスタになると期待されながらも,なかなか採用が広がらないCNTだが,「塗料」という使い方で最初の道が開けそうな気配が出てきた。
次世代透明電極になるか
島津製作所と大同塗料などは,CNTを次世代透明電極にできないかと考えて,試作例をいくつも出展した。CNTは単体では非常に電気伝導度や移動度が高い。このことを利用してCNTのネットワークを樹脂表面上にうまく形成してやれば,透明度を保ったまま高い電気伝導度を備えるシートができる可能性があるというわけだ。
島津製作所などは具体的には,単層CNT(SWNT)や複層CNT(MWNT)といったさまざまな種類のCNTをそれぞれ溶液に混ぜ,それを透明な樹脂のシートに塗って,その透明度と電気抵抗率を調べた(図1)。
しかし現時点では芳しい結果は出ていないようだ。透明度については97~98%といった非常に高い値が得られているが,電気抵抗率がまだおよそ107Ω/□と電極として使える値よりも約3ケタも大きいのである。しかし島津製作所などは,まだ改善の余地はあるはずと考えており,今後も開発を続けるという。
発熱体として利用
ドイツFraunhofer Technology Development Group TEGは,CNTを発熱体として利用する実演を披露している。CNTなどから成る塗料を,紙や金属箔,そして透明な樹脂のシート上に塗り,そこに電気を流して発熱する様子を見せている(図2)。紙や金属箔は黒いが,透明シートは透明性を保ったまま発熱していた。さらに,この発熱シートを小型のスターリング・エンジンの下部に張り付け,そのエネルギーでプロペラを回している。発熱の出力は1.5W/cm2が可能としている。
想定する用途は「椅子のシートや床の暖房,浴室の鏡の曇り防止など」(Fraunhofer Technology Development Group)であるという。
塗れる半導体として「印刷エレクトロニクス」に
NECは,CNTを塗布工程で作製する半導体材料として利用した,試作品を出展した(第一報)(図3)。同社は既に2007年春に塗布型のCNT製半導体で移動度100cm2/Vsを達成したことを明らかにしている(日経エレクトロニクス「塗って作るトランジスタ ナノチューブで高速化」)。
今回は実際にトランジスタをフレキシブル基板上に作製し,基本動作を確認した(発表資料)という。