LSIの情報を追うテーマサイト「LSI情報局」で,2007年に最もよく読まれた記事は,LSI事業や技術の今後の方向性を探る記事だったと言える。
▼ 2007年「LSI情報局」記事ランキング
復権のシナリオはあるか
LSI事業について,NECエレクトロニクス 代表取締役社長の中島 俊雄氏が2007年2月22日,「当社は今まさに経営危機に直面している。再建策を迅速に実行に移していく」と決意表明した記事が最も読まれた。営業損失の拡大を受け,製品戦略の再構築,生産体制の再編策などを示したが,日本のLSIメーカーの今後の行方を読み取ろうとした読者が多かったのではないかと思われる。
撮像素子メーカーやカメラ業界は,今度どのように事業を展開していくべきかを議論した記事も9位に入った。画素数競争を“チキンレース”ととらえる見方もまじえながら,今後の方向性の提案があった。
微細化の限界を指摘
LSIの技術については,やはり微細化が話題の中心になった。ただし,微細化の限界を指摘する声が,LSIを使う側からも作る側からも強くなってきた。
トヨタ自動車 トヨタ東京開発センター BR制御ソフトウェア開発室 マルチメディアグループ 主査の服部 雅之氏は,「自動車の安全性に直結するエンジン制御など向けのLSIは90nm世代より微細化することは得策ではない。安全性に結びつきづらいマルチメディア用LSIでも40nm世代くらいが微細化の限界だと思う。今後は微細化よりも,アーキテクチャや設計技術の工夫が重要になる」と語っている(3位)。
半導体メーカーからも単なる微細化ではない技術提案があり,トップ10に登場した。
東芝は,微細化に頼らずにNAND型フラッシュ・メモリを大容量化できる新しいメモリ・セル配列構造を開発した(10位)。ゲート電極膜と層間絶縁膜を交互に積み重ねた積層構造に,最上層から最下層まで貫通する孔を一度に開け,そこに不純物を含むSiを柱状に埋め込む。
米IBM社は,ナノテクノロジの一つとして知られる自己組織化反応を利用してコンピュータ用LSIを製造する技術を確立したと発表した(6位)。例えば,雪片が自然に形成されるのと同様な原理で,チップ内に無数の空孔を自己組織化的に形成し,配線間の絶縁体として使う。空孔を配線間の絶縁体として利用することにより,配線間の容量などを削減でき,「ムーアの法則」を2世代先に進めたのとほぼ同等の効果が得られるという。
元ソニーCEOでクオンタムリープ 代表取締役の出井 伸之氏は,半導体投資肥大化の危機を乗り切るためには,3次元CMOS技術が有力とした(8位)。
なお,アナログ技術者の育成の話も注目された(7位)。アナログ自体は以前からある技術だが,時代の変化に追随するためには基本からとらえなおすべきという提案でもある。
今年の記事ランキングの結果は,事業や技術のさまざまな観点で,LSIを見つめ直す記事が上位を占めた。業界の閉塞感や技術的限界を打破するために,根底からあらためて考えていこうという動きと思われる。