前回は,非常にシンプルなマーケットモデルを説明した。今回は,マーケットモデルを基に,これまで紹介したシステム・デザインの手法を使って適切な要素技術開発計画を作る方法を紹介する。

アジレント・テクノロジー 電子計測本部 R&D プロセスコンサルティング
多田 昌人

 マーケットモデルは,システム・デザインの最上位モデルであり,それが将来開発する製品像を定義することになる。マーケットモデルには,複数の製品系列が将来にわたって進化を続けていく計画が描かれているはずだ。  ただし,それだけで製品系列を計画通りに開発できるわけではない。限られたリソースの中で品質を保ちながら計画通りに開発を進め,利益を上げるために,多くの組織では製品開発計画と共に,要素技術の開発計画も作っている。今回は,どうやって要素技術の開発計画を策定するかについて述べる*1

*1 この方法は,現在ではSPL(Software Product Lines)と呼ばれている。同系列の製品の開発生産性と品質を向上する方法を体系化するのに大きなヒントとなった。なお,アジレント・テクノロジーでは,SPLのSをSoftwareではなく,Systemと捉えて運用している。

 要素技術とは,今後の新製品で他社と差別化を図るために必須の技術のこと。新機能を実現したり圧倒的な性能向上を図ったりするための技術や,大幅なコストダウンを実現する技術のことを指す。ここでは,要素技術の開発計画と合わせて,製品開発の生産性や品質を高めるための「共通アーキテクチャ」と「共通部品」の開発計画も考える*2。  なぜなら,同系列の製品を開発していくには,設計資産の再利用が必須だからである。それと同時に,どんなに優れた要素技術でも計画通りに提供できなければ意味がないからだ。
 逆に言えば,アーキテクチャを考えずに,新機能やコストダウンといった要素技術だけを取り出して開発計画を立ててもうまく製品開発に結びつかない。それらの要素技術とアーキテクチャの開発計画は並行して考えなければいけないのだ。

*2 単に技術的な意味ではなく,製品に要求される機能や性能が設計要素(機械,電気,ソフトなど)に対してどのように割り付けられ,それぞれがどう関係しているかという概念(本連載第2回より)。

 家庭用プリンタを例にとると,要素技術の開発計画とは,図1に示すようなものとなる。これは前回(第15回)作成したマーケットモデルに,そのFURPS+の実現に必要なリソースの開発計画(図中オレンジ色で囲った部分)を付加したものだ。 ここでは「利用可能な技術」「自社開発が必要な技術」「アーキテクチャ」を時系列に並べている(ここでは省略しているがこれ以外にも開発要員/能力の計画も必要だろう)。なお,利用可能な技術も,自社開発が必要な技術も,将来製品を実現するには必要な要素だが,前者は他社との差別化に関係しない技術を意味する。

図1 マーケットモデルに対応した技術開発計画

将来必要な技術を見極める