「あるモノにマイコンが搭載されたらどうなるか?」をテーマに,技術者たちが集まって行った座談会。「ショッピングカート」と「窓」をテーマにした議論をお届けした前編に引き続き,後編ではその他の用途や,マイコンを搭載する意義についての議論を紹介する。「人間の経験の差を埋める」「使い方を広げる」といった点に,マイコンの意義と次の市場を見つけるポイントがあることで議論が一致した。

座談会に参加したメンバー
A氏:組み込みソフト技術者。音声・画像認識システムのメーカー勤務
B氏:マイコン技術者。マイコンメーカー勤務
C氏:機構系設計の技術者。カメラメーカー勤務
D氏:マイコン分野の記者
司会:Tech-On!編集

ベビーカーの背中に扇風機

司会 3番目に要望が多かったのが「ベビーカー」でした。自由意見欄にも赤ちゃんの状態を見て適切な対処をする,移動が速過ぎると自動的にブレーキをかける,などが挙げられています。個人的にも興味深いです。

C氏 自動的にブレーキをかけるといったことは機構的にはできそうですが,問題は動力源を積むことによる重量化ですね。電車に乗ったり階段を上ったりするとき大変になってしまうかと。

D氏 加速度センサーとブレーキまでならば現実的なんじゃないですか。加速度センサーは今では携帯電話に入るぐらいですし,一定以上のスピードを検知したらブレーキをかけるような仕組みでどうでしょうか。

司会 ただ,ベビーカーで急ブレーキは避けたいですね。適度に減速する仕組みも必要でしょう。

B氏 ベビーカーは,赤ちゃんの背中に接する部分が通気性を保てるようになっているんですが,意外と効かなくて赤ちゃんが背中に汗かいちゃうんですよ。あそこに赤ちゃんの状態を感知して動く小さい扇風機があるといいかもしれません。こんな感じでしょうか(イラスト参照)。

A氏 感知する条件としては,温度や汗に加えて,圧力もあります。赤ちゃんが乗っているかどうかを判断するために。

D氏 泣き声も感知に利用してもいいんじゃないですか。

司会 汗をかきそうになったら扇風機が回るわけですね。

携帯電話との組み合わせにヒントあり

司会 ベビーカーへの意見ではこの他に,マイコンを使えば,直射日光があたると自動的に幌を広げたり,おしっこを検知したりできるんじゃないかという声もありました。

C氏 おしっこ検知はベビーカーというより,おむつの中にセンサーを入れれば簡単ですが,それもどうかと・・・。

B氏 最近のおむつは,濡れると青く変化するものがあります。その色を検出すれば中に入れなくてもできますけど。

組み込みソフト技術者のA氏

A氏 でもおむつが濡れれば,そもそも自分で泣くんじゃないですか。

司会 赤ちゃんがぐずりそうだったら,揺らしたり音を鳴らすなどの機能があったら便利ですね。

A氏 一番欲しいのは階段を上がる機能です。自動でなくても,手を添えるレベルで階段を上がれればありがたいですが,問題は機構系と動力系です。

C氏 階段を上れるようになる代わりに,本体が重くなる可能性がありますからね。ベビーカーって軽さが重要ですから,意外とできることが限られると思うんです。

D氏 やはりベビーカーに加えるとしたら,扇風機程度が現実的かなあ。

C氏 ベビーカーでも,親から赤ちゃんの顔が常に見えるものと見えないものがありますよね。見えない場合に,カメラを使うのはどうですか。映し出すディスプレイを積むとしても,トータルで携帯電話レベルの大きさで済むと思います。

B氏 もしくは親の携帯電話を活用して,出かけるときはベビーカーにセットして使えるようにしてはどうでしょう。携帯電話のマイコンは機能的にも余裕がありますしね。

D氏 なるほど。ベビーカーにすべてのマイコンを搭載するより,「あなたの携帯電話をここに差してください」として携帯のマイコンと組み合わせて活用する方が,仕組みははるかに簡単だし,使いやすいですよね。

A氏 Bluetoothを使えば,一定の位置に差す必要さえなくなります。

司会 複雑な処理の部分を携帯電話で行い,その情報をもとに揺らしたりする機構系の部分のマイコンだけベビーカーに積むという具合に,役割分担をするのがよさそうですね。そうすれば顔認識のような最新技術も,すぐにベビーカーに活用できるかもしれません。(次のページへ