前回までに「顧客モデル」から「製品モデル」「システムモデル」へ展開するという,システム・デザインの主な流れを一通り説明した。今回は,一連の作業のもっと前の段階にさかのぼり,システム・デザインの手順として最初に構築すべき「マーケットモデル」について解説する。

アジレント・テクノロジー 電子計測本部 R&D プロセスコンサルティング
多田 昌人

 システム・デザインの目的の一つは,対象となるシステムを適切に設計し,機能の漏れや性能未達,不具合多発による手戻りといった設計上の問題を後工程に残さないようにすることにある。開発プロジェクト規模が小さくてベテランがそろっていれば,こんなことはしなくて済むだろう。モデルの展開などをせずに経験に頼って一気に開発を進めても,問題なくしかも短期間に製品化できる。

 しかし,システム・デザインにはもう一つの非常に重要な役割がある。それは,同様の製品をシリーズ展開したり次期製品を開発したりする際に,モデルの再利用によって開発の生産性を高めること。そのためには,システム・デザインによって,中長期に使える共通プラットフォームと共通部品を作る必要がある。

 特に重要なのは次期製品を作りやすくするという点だ。そのためには,次の,そしてまたその次の要求をも予想・把握して設計すべきなのである。現在抱えている製品開発だけに着目した狭い要求定義ではあってはならないのだ。この,将来を見据えた要求の把握と定義が「マーケットモデル」に相当する。

 考慮すべき範囲が広く抽象度が高いので,解説を後回しにしてきたが,本来マーケットモデルは,システム・デザインの最も上流に位置しているモデルだ。連載の第3回で,マーケットモデルについて触れたところを振り返ってみよう(該当個所)。

--第3回の一部再掲--
 まず,マーケットモデル。これは市場の動向を広範囲で長期的視点から見据えるものである。次世代DVDの場合は,次世代DVDだけにとらわれず,AV機器の視聴環境や楽しみ方の将来像を表現する(モデル化する)。このとき,直近の1~2年ではなく,もっと先の将来像を考えるのがポイント。AV機器の姿は変容しているだろうし,コンテンツや媒体,受け方,機器の役割分担なども大きく変わっているに違いない。それらについて,種々の情報を基に仮説を立てて表現するのだ。
--ここまで--

時代背景から潜在ニーズを捉える