8値の位相変調で1040kmを伝送する前と後の信号点の様子など
8値の位相変調で1040kmを伝送する前と後の信号点の様子など
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 日立製作所は,総伝送容量480Gビット/秒の大容量通信を1040km伝送できることを確認したと発表した。3ビット(8値)の位相変調と16波の波長多重の両方を用いて,伝送容量を高めたという。「8値の位相変調を用いてこれだけ長距離を,しかも波長多重と組み合わせて伝送できたのはこれが世界で初めて」(日立)という。同社は今回の成果を,横浜で開催中の光通信国際会議「OECC/IOOC 2007」のポスト・デッドライン・セッションで発表する。

 日立製作所は,以前から光信号の多値変復調技術を研究しており,2004年9月には4ビット(16値),2007年3月には5ビット(32値)を実現している(関連記事)。

 今回の発表は8値と多値度は小さいが,いくつか新しい技術を導入して実用性を高めた。具体的には,(1)従来,8値変調では4個の受信器を用いて光信号の情報を読み取っていたのに対して,光信号を同相成分と直交成分に分けた上でそれぞれに1個(合計2個)の受信器と適応デジタル・フィルタを用いる方式を開発した,(2)送信器内の位相変調器を3段に分けるなどして信号強度の揺らぎを減らし,さらに送信時の信号強度をやや弱くして,光ファイバの非線形効果が目立たないようにした,ことなどである。この非線形効果は,光の信号強度のバラつきが位相のバラつきに変わってしまう現象で,光通信の多値化を難しくしている要因の一つになっている。

 伝送路は実験室内で構成したもので,1周80kmの光ファイバを光増幅器と光カプラを介して13周させて1040kmとした。8値の位相変調による1波長当たりの伝送容量は30Gビット/秒である。受信側でのビット誤り率は10-4だった。「10-3以下であれば,『スーパーFEC』などの誤り訂正技術を用いて10-13の信号品質を実現可能」(同社)という。ただし今回は誤り訂正はかけていない。

ようやく多値変調に脚光があたる

 光通信ではこれまで20年以上の間,ずっと信号をオン・オフさせるだけの2値変調が用いられていた。伝送容量の拡大はオン・オフの高速化と波長多重技術の組み合わせで進められていた。最近になってようやく,光信号の多値変調を用いる動きが出てきており,4値変調の実用化が始まりつつある(関連記事)。

 それというのも,波長多重とオン・オフ変調は「そろそろ限界が近づいている」(日立)ためだ。これは,オン・オフによる振幅変調には,高速変調自体の技術的課題に加えて,高速にすればするほど占有帯域幅が増えてしまう問題があるためである。占有帯域幅が大きいと,波長多重の多重度の確保が難しくなったり,PMD(偏波モード分散)と呼ぶ光ファイバの分散特性による信号劣化の影響が大きくなったりする。

 一方,位相変調では占有帯域幅をそれほど増やさずに情報の伝送容量を上げられる。このため,位相変調の多値度を高めれば,送受信器の回路の複雑さは増すものの,これらの問題を軽減できる。「海底ケーブルなど,新しい光ファイバをなかなか敷設できない状況では,送受信器のコストが多少上がっても多値化のメリットのほうが大きくなる」(日立)。

 日立製作所は今回の技術の実用化時期を「(4値変調が普及した)5~10年後ぐらい」と見積もっているという。

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