韓国Samsung Electronics Co., Ltd.は,これまで半導体景気の良し悪しに左右されずに投資を継続する戦略を採ってきた。圧倒的な生産能力を持つことでシェアを奪い,価格主導権を握る。その上でコスト競争力とマーケティング力で競合他社より優位に立つ戦略だ。これは,1990年代半ばに投資を止めたことで,シェアとコスト競争力を失い,最後にはDRAM事業から撤退していった日本メーカーを反面教師としている。Samsung社はこの戦略で,DRAMでトップ,NAND型フラッシュ・メモリでトップ,半導体企業の中でも売上高で米Intel Corp.に次ぐ2位という座を得た。しかし,大成功をもたらしたこの戦略が,2006年秋ころから上手く回らなくなり始めたようだ。

増産したメモリが供給過剰に

 投資を継続したSamsung社は,その生産能力で他社を圧倒している(図)。加えて,同じ生産ラインでも,市場の状況を見ながらDRAMとNAND型フラッシュ・メモリに振り分けることができる。より利益率の高い側の製品を増やして利益を高める作戦だ。これまでは,この作戦がズバリ当たってきたが,ここにきて投資を継続してきたSamsung社は,生産能力があまりに大きくなり過ぎたという懸念がある。言い換えれば,同社が生産ラインを傾注した側のメモリが供給過剰に陥り,価格が暴落する状況に陥ってしまうのだ。


図●メモリ・メーカーの口径別ウエハー投入量(2007年第1四半期実績)
面積で300mmウエハー換算した値。DRAMとNAND型フラッシュ・メモリ向けのみ。東芝には米SanDisk Corp.との合弁会社分をすべて含む。米Micron Technology, Inc.には米Intel社との合弁会社分をすべて含む。

 実際,2006年11月から2007年2月にかけてNAND型フラッシュ・メモリ価格が暴落した。これは米Apple, Inc.が携帯型音楽プレーヤ「iPod」を減産してNAND型フラッシュ・メモリの需要が落ち込んだときに,Samsung社がNAND型フラッシュ・メモリを大量に生産し続けたために起きた。そして,2007年2月に同社がNAND型フラッシュ・メモリからDRAMに生産を振り替えると,今度はDRAM価格が暴落してしまった。

 これまでも供給過剰の状況はあったが,Samsung社は市場を見ながら先手を打って不足する品目に生産を振り分け,被害を最小限に抑えてきた。しかし,現在はあまりに生産能力が大き過ぎるため,Samsung社が需要をほんの少し見誤るだけで,供給過剰に陥る状況にある。判断ミスが許されない。さらに,力を入れる分野で自ら利益率を下げる結果を招くだけでなく,DRAMとNAND型フラッシュ・メモリの生産切り替えで,生産効率が低下する。これがボディブローのように業績を悪化させている。一方,競合他社は,自社の主力とするメモリと異なる側にSamsung社が注力している間に,一息つける。Samsung社にとっては皮肉な状況だ。

Samsung社のもう一つの問題

 もう一つ,Samsung社は問題を抱えている。それは,古い200mmウエハー対応生産ラインが多いことだ(図)。半導体は日進月歩で技術開発が進むため,すぐに生産ラインが古くなる。1990年代後半にSamsung社は圧倒的な投資でシェアを奪った。その時に建てた200mmウエハー対応生産ラインが今でも稼働している。200mmウエハー対応ラインは,300mmウエハー対応ラインに比べると効率が悪く,メモリのコストが高くなる。200mmウエハー比率が高いSamsung社は,コスト競争でかなり不利な状況だ。

 常勝Samsung社が,この苦境をどう乗り切るのか。マーケットを先取りしていたかつての面影は見られないが,1990年代の日本メーカーと異なり経営者の判断は迅速だ。今後の同社の動向に注目したい。