2007年5月,DDR2型512MビットDRAMの大口向け価格は2米ドル以下まで下がった。1GバイトのDIMMが40米ドルを下回り,2006年末に比べて半値以下になった。この価格ではどのDRAMメーカーも赤字だ。

 今回の価格暴落の背景には,DRAMメーカーの大規模投資と韓国メーカーのDRAMシフトがある。まず大規模投資についてみる。DRAMメーカーが投資に積極的なのは2006年の収益が高かったことに起因する。2006年に各DRAMメーカーはチップ・サイズの縮小,いわゆる微細化を図った。しかし,微細化はスムーズに行かず,生産量が思うように上がらなかった。DRAMは供給不足になり,価格が高止まりした。皮肉なことに微細化の失敗がDRAMメーカーの収益を安定させ,シェア拡大のための投資を増やす結果になった。米Microsoft Corp.の新OS「Windows Vista」の発売を2007年1月に控え,DRAM需要の爆発的増加が予想できたことも投資を後押しした。

 また,同じ生産ラインでNAND型フラッシュ・メモリとDRAMの両方を生産する韓国メーカーが,2006年末以降に生産ラインをDRAMにシフトしたこともDRAM供給量に大きく影響した。韓国Hynix Semiconductor Inc.は,利益率の高い大容量のNAND型フラッシュ・メモリ市場で出遅れている。そこで同社は2006年末に生産ラインを当時高値だったDRAMへ傾注し始めた。また韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.も,2007年第1四半期にNAND型フラッシュ・メモリの価格が暴落したのを受けて,生産ラインをDRAMにシフトしている。

 実際,大規模投資と韓国勢のDRAMシフトでDRAM向けウエハー投入量が急速に増えている(図)。2006年は対前年比20%増前後で推移していたが,2007年に入り同30%増以上に上昇した。これが2007年3月以降のDRAM価格の大幅な下落につながった。


図●DRAM向けウエハー投入量の推移(面積で200mmウエハー換算。2007年第1四半期までは実績,2007年第2四半期からは予測)

Vista効果は期待はずれ

 一方,爆発的に増えるはずだったパソコン向けDRAM需要が不発に終わったことも,DRAM価格暴落に拍車をかけた。Windows Vistaは,必要なメモリ搭載容量がBasic版でも512Mバイト,Premium版であれば1Gバイト。より快適な動作環境を確保するためには,この倍の容量を搭載したいところだ。すなわち,パソコンのメモリ搭載容量は1G~2Gバイトになってもおかしくない。それまで512Mバイトが主流だったことからすれば,大幅な増加が予想された。

 しかし,2006年後半にDRAMは供給不足で,512Mビット品は6米ドルまで値上がりしたほどだった。1Gバイトを搭載すると100米ドル近いコストになる。パソコン・メーカーはコストを抑えるために512Mバイトを標準搭載とし,メモリ拡張はユーザーの選択ということにした。さらに,Windows Vista搭載パソコンの売れ行きが芳しくないことが追い打ちをかけた。Windows Vista発売後,一週間くらいは新OSを試してみたいユーザーが飛びついたが,その後の売れ行きは低迷している。VistaによるDRAM需要の増加は期待外れだった(Tech-On!関連記事)。

2007年夏にはDRAM需給が引き締まる

 2007年後半のDRAM市況を占う。2007年のパソコンの生産台数は,全体で前年比10%増で成長するだろう(本シリーズ第1回「2007年の電子機器市場,パソコン,携帯とも二桁成長,PS3ブレーキでもゲーム機は過去最高」参照)。したがって,例年通り2007年後半はパソコン需要が盛り上がる。DRAM価格が1Gバイトで40米ドルを下回ったため,2007年後半のパソコンのメモリ標準搭載容量は平均1Gバイトに引き上げられるだろう。パソコンの台数と搭載容量の両方でDRAM需要の増加が見込める。

 また韓国勢のNAND型フラッシュ・メモリからDRAMへの生産シフトもこれ以上は起きない。むしろ米Apple, Inc.の携帯型音楽プレーヤ「iPod」向けNAND型フラッシュ・メモリ需要次第では,再びNAND型フラッシュ・メモリへ生産を戻すだろう。従って,DRAMの需給は今より引き締まる可能性が高い。急激な価格上昇はなくとも,512Mビット品が2.5~3米ドルまでは回復するのではないだろうか。

 iPod向けNAND型フラッシュ・メモリ需要については,第3回で報告する。