香港Elcoteq Asia Ltd.のHenry Gilchrist氏
香港Elcoteq Asia Ltd.のHenry Gilchrist氏
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 インドが「携帯電話機の巨大市場」と言われるようになって久しい。2004年には約4000万件だった携帯電話機の契約件数が,現在では日本を上回る1億件に達した。今も急速に件数を伸ばしている。

 これに対し,インドが端末の製造拠点として注目されるようになったのはつい最近のことである(日経エレクトロニクス関連記事)。2005年から2006年にかけて,米Motorola社などの端末メーカーや,端末メーカーから製造を委託されたEMS(electronic manufacturing service)企業が,インドに製造拠点を建設し始めた。

 そのインドでいち早く携帯電話工場を稼動させたのがフィンランドElcoteq社である*1Tech-On!関連記事)。2005年4月には,インドのBangaloreに建設した工場が操業を始めた。敷地面積は約8000m2で,最大1万8000m2まで拡張できる。現在の従業員は400名で,2006年末には1000名まで増員する予定である。

Elcoteq社が手掛けるのは,携帯電話機とその関連商品,そして通信ネットワーク機器の製造である。香港CSC Securities (HK) Ltd.(群益證券)によれば,Elcoteq社は2005年に,フィンランドNokia Corp.の携帯電話機の40%強に当たる1億1200万台を製造したとされる。このほか,英Sony Ericsson社,Motorola社などから製造を委託を受ける。Elcoteq社の売上高は約5800億円。2005年度は減収となったEMS企業が多い中で,売上高が前年度比42%増と極めて高い伸びを見せた。

 なぜElocoteq社は,製造拠点としてのインドにいち早く注目したのか。Elcoteq社のアジア販売担当である香港Elcoteq Asia Ltd.,APAC Business Development Sales & Marketing DirectorのHenry Gilchrist氏は,インドのBangalore工場の立ち上げに深く関わった経歴を持つ。同氏に,インドの携帯電話市場について話を聞いた。

(聞き手=浅川 直輝)

――なぜ,インドでの現地生産を重視するのか。携帯電話機は重さが小さく,輸送コストが低いため,中国などによる一極集中生産が適しているように見える。

Gilchrist氏 中国からインドに端末を輸入する場合,輸送コストのほか,関税のコストが重くのしかかる。現在では,外国から輸入される携帯電話機には4%の特別追加関税がかかる。コスト競争が激しい中で4%の差は大きい。

 関税や輸送コストに比べ,労働コストの安さはそれほど重要ではない。実際,インドは中国に比べ,労働コストはわずかに安い程度だ。

 将来は,現地調達の部品を増やすことで,インドで現地生産する際のコストをさらに引き下げられるだろう。最近になって,インド国内で携帯電話機の部品調達から組み立て,流通に至るサプライ・チェーンが急速に整備され始めた。特に南部のBangalore とChennaiは,携帯電話機向けの部品工場の集積地になりつつある。現在のところ,我々が製造する端末の部品に占める現地調達品の割合は,コスト換算で15%~20%ほど。今後は,半導体や液晶パネルも現地調達できるようになり,4年以内に50%を達成できるとみている。

――Elcoteq社と同じEMS企業である台湾Hon Hai社は,部品の多くを内製する垂直統合の体制を採っている。2006年には,部品の製造部門ごとインドのChennaiに進出し,2006年夏から製造工場の操業を始める見込みだ(日経エレクトロニクス関連記事)。Hon Hai社とElcoteq社の戦略の違いを聞きたい。

Gilchrist氏 私は,垂直統合体制のEMS企業が成功するという考えは,一時の幻想にすぎないと思っている。我々のように傘下に部品メーカーを抱えない体制であれば,常に優れた技術を持つ部品メーカーを選別し,出資を含めて緊密な連携が取れる。このような体制を,我々は「水平統合」と呼んでいる。現在のところ,筐体やキーパッド,機構部品などについては,提携する部品メーカーに製造を委託している。我々が手掛けるのは,製品の設計,外観デザイン,サプライ・チェーン管理,表面実装,検査,アフター・サービスだ。

――現在,日本の携帯電話機メーカーは,インド市場をはじめ新興市場に進出できていない。その理由をどう考えているか。

Gilchrist氏 日本メーカーは数年前から,台湾のODM(original design manufacturer)企業に途上国向け端末の設計・製造を委託していた。ここで失敗だったのが,明確なプラットフォーム戦略を採らずに,複数のメーカーに個別に開発を委託してしまったこと。この結果,1プラットフォーム当たりの出荷台数が20万台前後ときわめて少なくなる場合もあった。これでは,一台当たりの開発コストが高騰してしまう。

 日本の携帯電話機メーカーには,戦略次第で世界市場に進出する余地が残っている。第3世代以降の携帯電話技術については,日本のメーカーが大きなアドバンテージを持っているからだ。日本メーカーは,第3世代携帯電話機のキー・パーツを内製できる技術力を生かし,我々のように世界に展開するEMS企業を活用することで,世界市場に進出するべきだ。

<訂正>
掲載当初の記事で「特別追加減税」としていたのは「特別追加関税」の誤りです。お詫びして訂正します