実験に利用している配電盤。電力線は4系統に分かれている
実験に利用している配電盤。電力線は4系統に分かれている
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漏洩電波の測定システムと,ソフトバンクBBの菅原裕樹氏
漏洩電波の測定システムと,ソフトバンクBBの菅原裕樹氏
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漏洩電波のケーブルによる違い(現場での測定値)。青線がシールドなし。黄線がシールド・スリーブを電源コードに被せた場合の値
漏洩電波のケーブルによる違い(現場での測定値)。青線がシールドなし。黄線がシールド・スリーブを電源コードに被せた場合の値
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電源コードによる漏洩電波の違い(ソフトバンクBBがあらかじめ測定していた値)
電源コードによる漏洩電波の違い(ソフトバンクBBがあらかじめ測定していた値)
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実験に利用したPLCモデムと電源コード。太いコードが「シールド・スリーブ」。下のコードは電源コードに導電性テープを巻きつけたもの。「低減BOX」はチョーク・コイルを内蔵する。
実験に利用したPLCモデムと電源コード。太いコードが「シールド・スリーブ」。下のコードは電源コードに導電性テープを巻きつけたもの。「低減BOX」はチョーク・コイルを内蔵する。
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ソフトバンクBBは,周波数が短波帯(2M~30MHz)の搬送波を利用する電力線データ通信(PLC)技術の実証実験の模様を公開した。同社は2006年7月14日に,東京・汐留にある本社ビル内でPLCの実証実験を行うと発表していた(関連記事)。

 同社はPLCを「いつでもどこでも誰でもインターネットに接続できるようにするという当社のミッションを実現する有効な手段になりうる」(同社 ネットワーク本部 IPモバイル技術部 システム検証グループ マネージャーの菅原裕樹氏)と見ている。

 理由としては,(1)無線LANは壁越しの部屋あるいは2階の部屋などに電波が届きにくい,(2)無線LANの接続にはある程度のスキルが必要だが,PLCなら電源コードを差し込むだけなので利用できる人を選ばない,(3)据置型のデジタル家電にはPLCのほうがより自然,(4)電話のモジューラー・ジャックが付いている部屋は限られていることが多いが,電源コンセントのない部屋はほとんどない,などを挙げる。「今はまだパソコンは一家に1台ぐらいでパソコンが得意な人が使っているが,今後は以前にテレビが各部屋に入っていったように,パソコンが各部屋で使われるようになる」(菅原氏)と予測する。

 同社が想定するPLCの利用形態は,戸建住宅ではADSLモデム,マンションでは光ファイバやADSL経由で各戸に設置されているVDSLモデムに対して,PLCモデムを接続し,その電源コードを電源コンセントに接続するというもの。こうすると,各戸の各部屋の電源コンセントがインターネットの接続端子となる。

 PLCにはマンションのMDF(主配電盤)から各戸までを接続する使い方も考えられているが,ソフトバンクBBは「現時点ではそうした使い方は想定していない」(菅原氏)と否定した。

電源コードに金属シールドを装着

 ソフトバンクBBが今回の実験で確認しているのは,(1)インターネット接続に必要な帯域や通信距離をPLCで実現できるかどうか。特に無線LANとの比較,(2)PLCで電源コードから漏洩する不要電波を通信事業者の工夫でどこまで減らせるか,の2点である。

 (1)に関しては,ブロードバンド・アクセス回線としてADSLを利用した環境で無線LANと遜色ない帯域を確認できたという。「家庭内の電力線は配電盤を通していくつかの系統に分かれて伸びているが,系統の異なる電力線間の通信でも,実用上大きな問題はでない。通信距離も170mぐらいまでは十分届くことが分かった」(菅原氏)。

 (2)の実験を実施しているのは,電波の漏洩問題をメーカー任せにしてよいのか,という懸念があったためという。具体的には,マンションではMDFから各戸までをVDSLで接続していることが多い。ところが,VDSLが利用している搬送波の帯域は短波帯を利用するPLCと一部重なる。このため,PLCモデムとVDSLモデムを近接させて設置すると,PLCモデムや電源コードから漏れる不要電波が,VDSLの通信に悪影響を及ぼすのではないかという懸念があった。既に,電気通信技術に関して日本でのガイドラインを策定している情報通信技術委員会(TTC)では,「VDSLモデムとPLCモデムは10cm以上離したほうがよい」といった利用ガイドラインを発表している。

 こうした理由から,ソフトバンクBBはPLCモデムから伸びる電源コードに漏洩電波を遮断する工夫を施して,漏洩電波のレベルを少しでも低減したいのだという。「電源コンセントから先の配線は壁の中にあって電波が遮断されやすい。一方,PLCモデムと電源コンセントの間の電源コードはむき出しになっている。漏洩電波も一般にはモデムに近いところから強く出ることを考えると,ここの漏洩電波を抑えることに一定の有効性があるはず」(菅原氏)という。

 現時点で試しているのは,(1)導電性のテープを電源コードに巻きつける,(2)チョーク・コイルをはさんで漏洩電波の原因となるコモン・モード電流を遮断する,(3)「シールド・スリーブ」と呼ばれる金属繊維でできたチューブを電源コードに被せる,などの方法。

 現状で最も有効なのは(3)の方法だという。「規制値が厳しい15M~30MHzの間では,最大で-20dBぐらいの漏洩電波の低減効果があった」(菅原氏)。シールド・スリーブはコストもテープより安く,折り曲げにも強いという。

 今回,同社は実験に利用したPLCモデムやPLC用LSIのメーカーは明らかにしていない。