電通国際情報サービス 製造システム事業部
プロダクト開発部 伊藤宗寿
CAE技術部 若林英一
エンジニアス・ジャパン マーケティング本部
工藤啓治

 佐藤さんは,システム化のメリットをもっと拡大するために,解析の設計者への展開についても議論してみることにした。まずは前回と同様,システムベンダーの若林さんに話を聞きながら,自社ではどのように展開できるのか,を考えてみる(図1)。CAEによる設計最適化などの知識は,プロジェクトメンバーの誰も持っていない状態だが,大丈夫だろうか?

 まず一般的な設計者に対するCAEの展開について議論が始まった。佐藤さんが村上さんに質問を投げかけた。


図1●メンバーにシステムの説明をする若林さん

設計者への展開の位置付け

佐藤さん「村上さん,設計者が自分たちで解析できるといいなと思うのはどんな場合ですか?」

村上さん「そうですね,簡単に想像できないような現象,例えば私だったらあまり詳しくない熱や流体の問題なんかを知りたいときですね。で,それらをなるべく設計の初期段階,つまり基本的な構造や性能を決める段階で確かめられるなら,自分で計算してみたいと思います。基本的な構造は初めに決めておかないと,後で変更するとなると影響する範囲が大きくなりますから」

佐:「そうなんですよ。後で大きな変更をすると,金型部門とかにすごく迷惑をかけることになってしまうんですよね。いつも怒ってますよ,金型の人(笑)。ところで,詳細設計が進んだ段階だとどうですか?」

村:「詳細設計の段階だとほぼ設計パラメータが決まってきてしまうので,修正できる範囲が小さくなってしまいます。初期段階だとまだ変更が容易なので,いろんなケースを試して意図通りのパラメータで設計できます。詳細設計に入ってから解析するとしたら確認のためでしょうね」

佐:「なるほど,詳細設計では確認のための解析という意味合いが強くなるわけですね」

村:「それに詳細設計での解析では正確な数字も欲しいんです。そうすると,自分たちで解析するよりも,佐藤さんの部署のような解析専門の人にお願いしたほうがいいですよね?」

佐:「そんな遠慮せずに,設計のほうでやっていただいてもいいんですよ,村上さん(笑)」


 解析を設計者へ展開したい場合,同じ設計でも初期段階(構想設計段階)での適用を希望するケースが多い。これは,いくつかの理由があるが,主なものとしては,

1)構想設計段階では,変更可能なパラメータが多いため,いろんなケースからもっとも適したパラメータの組み合わせを選択できる。詳細設計時では,変更できるパラメータの範囲が狭くなり,設計変更が難しい。むしろ詳細設計時の解析は,性能の確認のためという位置付けのものが多くなる。

2)構想設計段階では,おおよその傾向が知りたいだけで,必ずしも正確な数字を得る必要がないことも多い。設計者への展開を考えた場合,正確な値を得るよりも,傾向を得るという目的で展開した方がCAEの要素技術を確立しやすい。

などが考えられる。


佐藤さんと村上さんは,先ほどの議論を続けていた。

佐:「村上さん,先ほど最適なパラメータで設計したいという話がありましたが,やはり最適化とか,できるといいと思いますか?」

村:「それはいいですよね,だって,自動で解析して最適なパラメータの組み合わせを探してくれるんですよね。考えなくていいってことですよね!」


その議論に,解析部の千葉さんが口を挟んだ。

最適解を得たいのか,絞り込みたいのか

千葉さん「少しよろしいですか? そんな,最適な答えなんて,ぱっと得られるものなんですか? 私たち自身もさんざん何回も計算して,考察して,パラメータを検討しているのに,そんな作業が自動でできるものなんですか?」

実験部の松田さんも意見があるようだ。

松田さん「仮にそうやって自動的に最適な答えが出るとしても,それでいいのか? 設計として,そこは自分で判断しなきゃいけないんじゃないか? しかも,その答えを信じて設計して後で何かあったら,誰がそれを確認できるんだ??」

佐:「あ,あの,皆さんいきなり熱くなってきましたね。最適化っていう話題が悪かったんでしょうか? わ,若林さん,どうでしょうか?」


佐藤さんはシステムベンダーの若林さんに助け舟を求めた。

若林さん「わ,私ですか? えーとですね,システム的には,自動化ができるのでしたら,最適化の仕組みを作ることはそんなに難しくはありません。ただ,どのようなパラメータをどの程度変化させるか,どうなることが最適なのかの定義や,満たすべき制約条件など,あらかじめ決めておかないと最適化というのはできませんので,そこを決めるのがすぐにはできないかもしれません」

千:「ほら,やっぱり難しいんですよ」

若:「いえ,そういった条件さえ決められれば,そんなに難しいということはありません。実際いろんな企業で事例も多数ありますし,取り組みはいろいろされております」

村:「あの,ちょっといいですか?」

設計の村上さんに意見があるようだ。

村:「私がさっき最適化ができれば便利だって言ったので,ちょっと議論になってしまったようですが,良く考えると,必ずしも最適な結果だけが得られればいいかというと,そうでもないような気もするんです」

佐:「といいますと?」

村:「いろんなパラメータがありますので,設計の初期段階では,それぞれのパラメータをいろいろ変化させながら,その結果,熱の問題なら温度が何℃になるか,といった傾向を見たいわけなんです」

佐:「一つの結果が出てくるのではなく,複数の結果があってその傾向が知りたい,ということですか?」

村:「はい,必ずしも一つの最適結果でなくてもいい,ってことです」

佐:「それなら,できそうな気もしますね。若林さん」

若:「えっ,また私ですか? えーとですね,そういうご要望の場合には,『サンプリング』という手法を利用して,傾向を見ながら絞り込むということを行うことも可能ですよ」

サンプリングの効用