半導体生産用のシリコン・ウエハー需要が好調だ(図)。2004年と2005年の2年連続で出荷面積が過去最高を記録した。半導体用に加えて,太陽電池用にもシリコン需要が急増している。そのため,原料のポリシリコンが不足している。


図●世界のウエハー需要の推移(2000年~2005年実績)
出所:SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)

 現在の勢いでポリシリコン需要が増え続ければ,深刻な供給不足になる状態だ。ポリシリコンがなければ,シリコン・ウエハーも生産できず,いくら半導体メーカーが生産ラインに投資しても,増産できなくなってしまう。前回(本連載の第7回「もう欧米には頼らない,2000年を境目に世界のIC需要はBRICs時代に」を参照)に述べたように,今後も世界のIC需要は急増する見込みだが,それに見合う供給ができない可能性がある。

 米Intel Corp.や韓国Samsung Electronics Co., Ltd.が大規模な投資を続けているが,シリコン・ウエハーが不足すれば投資が無意味になってしまう。仮に自社だけはウエハーを確保したとしても,パソコンはCPUとメモリだけでは完成しない。Intel社やSamsung社は,これまでの成長シナリオが描けなくなる。

デフレからインフレへ

 ポリシリコンの不足が問題になり始めたのは,2004年初めのこと。その時,ポリシリコン・メーカーが投資をしていれば,2007年には供給に寄与するはずだった。しかし,ポリシリコン・メーカーは,需要が急増している太陽電池用ポリシリコンの生産能力の増強には積極的に対応しつつあるが十分とは言えない。対照的に半導体用は後ろ向きだ。このため,太陽電池用と半導体用の両方で需要が急増しているポリシリコンの不足は続きそうだ。

 ポリシリコン・メーカーが能力を増やさずにじっと値上がりを待つ戦略を採る背景には,これまでの経緯がある。これまでICメーカーの力が強く,川上側のシリコン・ウエハー・メーカー,さらに川上のポリシリコン・メーカーは厳しいコスト・プレッシャーに耐えてきたのだ。今回の戦略が功を奏してポリシリコンは,この1年間で単位重量当たり30%以上も値上がりした。

 一方,半導体用シリコン・ウエハーの単位面積当たりの平均価格は,2005年に約2%しか上昇していない。しかもこれは単価の高い300mmウエハーの比率が上がったためで原料の値上がりのためではない。ウエハーの原料であるポリシリコンの値上がりを,ウエハー・メーカーは製品価格に転嫁できなかった。しかし,2006年に入り,いよいよ耐え切れなくなったウエハー・メーカーが値上げに踏み切ろうとしている。ポリシリコン不足で生産が十分にできないウエハー・メーカーが出てきたほど,ウエハー不足に陥っているからだ。

次のコスト負担はICメーカー

 ICの平均価格は2005年通年で約2.5%値下がりした。電子機器の低価格化でコスト・プレッシャーが強く,競争が激しいICは値下がりが常態化している。しかし,ポリシリコン不足がウエハー価格にまで影響を及ぼし始めた。次にコストを負担するのは誰か。

 電子機器はBRICsに代表される開発途上国の需要に支えられていて,セット価格に対する低コスト化要求は厳しい。電子機器メーカーの寡占化は進んでいて,コスト負担に耐えられる電子機器メーカーは限られる。一方,ICメーカーの数は,ポリシリコン・メーカーやウエハー・メーカーの数に比べて多く,ICメーカー間の競争は激しくなるばかりだ。多くのICは値上げできるほどの差別化がしにくい。次のコスト負担は,ICメーカーが担うことになりそうだ。Intel社やSamsung社でさえこれまでのような高い利益率確保は難しくなるだろう。