【図1】従来品「TSF-1103」に対して,プロトン伝導度を1.5倍に向上した改良膜「TSF-1113」
【図1】従来品「TSF-1103」に対して,プロトン伝導度を1.5倍に向上した改良膜「TSF-1113」
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【図2】「細孔フィリング電解質膜」の作成模式図。サブμmオーダーの細孔の空いた基材にポリマー電解質を充填する
【図2】「細孔フィリング電解質膜」の作成模式図。サブμmオーダーの細孔の空いた基材にポリマー電解質を充填する
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【図3】改良膜の特性。標準品の「TSF-1113」を中心に,プロトン導電性を重視した「TSF-1111」とメタノール・クロスオーバー低減を重視した「TSF-1114」などをラインナップ
【図3】改良膜の特性。標準品の「TSF-1113」を中心に,プロトン導電性を重視した「TSF-1111」とメタノール・クロスオーバー低減を重視した「TSF-1114」などをラインナップ
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 東亞合成は,ポリオレフィン系の多孔質基材に電解質ポリマーを充填することにより「メタノール・クロスオーバー」(メタノールが膜を透過して性能が低下する現象)を抑えたDMFC(ダイレクトメタノール燃料電池)向け電解質膜の改良版を「第2回国際水素・燃料電池展」(2006年1月25~27日,東京ビッグサイト)で発表した。同電解質膜そのものは昨年の燃料電池展(Tech-On!の関連記事1)で発表したが,今回は材料に工夫を加えることでプロトン伝導度を約1.5倍に(図1),連続運転時間を5000時間から7000時間に向上した。従来電解質膜はすでにサンプル出荷を行っているが,これに続いて改良膜についてもサンプル出荷を始めたいとしている。

 同社はこの多孔質材料を使った電解質膜を「細孔フィリング電解質膜」と呼んでいる。東京大学助教授の山口猛央氏が開発した基礎技術を元に,東亞合成が持つ高分子技術と電気化学技術を融合して作成したものだという。多孔質基材の製法の詳細は明らかにしないが,ポリオレフィン系の基材にサブμmレベルの細孔を作りこんだものである。この多孔質基材に,スルホン酸基(-SO3H)を持ったアクリル酸系のモノマーを充填して重合して,電解質ポリマーを形成する(図2)。

 ポリオレフィン系基材には機械的強度を,アクリル系電解質ポリマーにはイオン伝導性を持たせる。通常は同一材料中で機械的強度とイオン伝導性を高める必要があるが,イオン伝導性を高めるためにスルホン酸基を多く導入すると,機械的強度が低下するというトレードオフの関係にあることから材料設計が難しくなる。この「細孔フィリング電解質膜」ならば両材料に機能を分担して,イオン導電性を高めたうえで機械的強度も向上できる,という材料設計が可能になる。

 DMFCでは,メタノール・クロスオーバーの低減が重要な課題になるが,「細孔フィリング電解質膜」はこれを低減する働きを持っていることも大きな特徴である。電解質膜中では,スルホン酸基が水の存在下でイオン化してクラスターを形成し,水素イオンが通る道(イオン・チャンネル)ができる。DMFCの燃料であるメタノール水溶液が供給されると電解質ポリマーが膨潤して,このイオン・チャンネルが拡大して,メタノール水溶液が流れやすくなり,メタノール・クロスオーバーが顕著になるのである(Tech-On!の関連記事2)。多孔質基材を膨潤しないように材料設計すれば,電解質膜が膨潤しても体積膨張を規制でき,メタノール・クロスオーバーを低減できる,という仕組みだ。

 多孔質基材と充填する電解質ポリマーの特性を各々変えることで,電解質膜としてのバリエーションを持たせることも可能になる。例えば,プロトン伝導性を重視したり,逆にメタノール・クロスオーバー低減を重視したり,といったラインナップをそろえている(図3)。