電通国際情報サービス 製造システム事業部
ソリューション企画部
伊藤宗寿

 設計二部と設計一部が相次いで佐藤さんに解析を依頼してきた。両方とも急ぎの仕事だが一度にはこなせない。一部の清水課長と二部の石井課長とで協議したものの結論は出ず。しかも,どういうわけか業務を受けてしまった佐藤さんが責められているような雰囲気になってきた(図1)。
 窮した佐藤さんだが, (いや,待てよ。本来,定型化しているなら,取り組むべきは…) と思い,切り出した。

図1

「定型」作業は自動化を

「石井課長,私に依頼されていた定型的な解析って,例のモデルですか?」
「そうだよ,形はほとんど同じだけど,寸法と条件がちょっと違うんじゃないかな?」
「それって,私がやらないといけないんですかね?」

 佐藤さんが疑問を抱いたのは“定型的というなら,本当に自分が実施すべき内容なのかどうか”という点だ。

「そ,それはどういう意味だね?君の仕事じゃないのか?それとも,忙しいからそんな作業はやりたくないとでも言うのかね?」
「そうじゃないんですよ。設計二部の仕事は類似の形状の解析が多いので,なんとか設計者の方で進めるとかできないものですか?」
「設計のメンバーでは解析は無理だよ。今使っている解析ソフトは操作が難しいでしょ。あれは設計じゃあ使えないよ」
「では,操作が簡単ならいいんですか?」
「操作が簡単ね…」

 石井課長が無言になってしまった。石井課長は知っているのだ。最近は操作が簡単な設計者向けの解析ソフトがあることを。しかし,設計者自身がそれらを使う時間もないほど忙しいことも十分理解できる。しばらくすると,石井課長が話を始めた。

「設計者が使えるような操作が簡単なソフトは,いままで使ってきた専門家向けのソフトと結果が変わっちゃうだろ? 昔の解析結果と比較できないんだよ。ソフトが同じなら相対比較できるけど,ソフトを変えると細かい条件が異なるから,比べられないだろ」
「確かにそうですね。過去にずいぶんたくさんの解析をしていますし,今後もそれと比べて評価したいってことですよね」
「そうだよ。だから,いつもずいぶん手間だとは思うんだが,すごく忙しい佐藤君に解析を頼んでいるんだよ。すまんなあ」

 いつの間にか,石井課長に乗せられた気がするが,それでは自分の業務は効率化できない。普段から考えていたアイデアを,この場で話してみることにした。

「設計二部の解析は,構想段階の検討用って感じですか?それとも詳細設計時の評価のためですか?」
「今お願いしているのは詳細設計時の評価のためだね。それがないと設計承認できないわけだよ」
「構想設計の時点ではどうなんですか?だいたいの傾向は把握しないと概略設計もすすまないんじゃないですか?」
「もちろん言う通りだよ。それがどうしたの?」
「構想設計段階の検討って,どうしているんですか? 解析は依頼されていませんよね?」
「そりゃ,そんな時間ないし,傾向だけわかればいいから解析まではしないよ」
「じゃあ,どうやっているんですか?」
「理論があるものは電卓たたいて理論式で計算したり,過去の図面見たり,そんなところかな」
「構想設計時に使える計算ツールは,どうですか?それなら設計者でも使えますか?」
「もちろん,構想設計で簡単に使えるツールがあるなら,使いたいよ。そんなことができるの?」

 佐藤さんは,トンネルの先に光が差し込むような思いがした。今後は,みんな,少しずつ考えてくれるかもしれない,どうすれば設計プロセスの中で有効に解析を利用していけるのかを。

設計者に使ってもらうために