【図1】左が開発した新炭化水素系電解質膜のTEM像(透過電子顕微鏡写真),右が従来のフッ素系電解質膜。スケールは明らかにしていないが,開発膜の方が,イオンチャンネル部(黒色部)が連続的であることが分かる
【図1】左が開発した新炭化水素系電解質膜のTEM像(透過電子顕微鏡写真),右が従来のフッ素系電解質膜。スケールは明らかにしていないが,開発膜の方が,イオンチャンネル部(黒色部)が連続的であることが分かる
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【図2】メタノール透過性と膜抵抗。175μm厚フッ素系膜に比べて,50μm厚の開発膜は,メタノール透過性は40%程度,膜抵抗も半減している
【図2】メタノール透過性と膜抵抗。175μm厚フッ素系膜に比べて,50μm厚の開発膜は,メタノール透過性は40%程度,膜抵抗も半減している
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【図3】出力特性。開発膜は,フッ素系膜に比べてメタノール透過性が40%低減したことにより,最大出力密度が約1.6倍に向上した
【図3】出力特性。開発膜は,フッ素系膜に比べてメタノール透過性が40%低減したことにより,最大出力密度が約1.6倍に向上した
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 クラレは,2006年1月24日に発表した,従来のフッ素系電解質膜に比べてメタノールのクロスオーバー(メタノールが膜を透過して発電性能が低下する現象)を40%減少できるDMFC(ダイレクトメタノール燃料電池)向け新炭化水素系電解質膜について(Tech-On!の関連記事),材料技術の一端を「第2回国際水素・燃料電池展」(2006年1月25~27日,東京ビッグサイト)で明らかにした。水素イオンが通る道(イオンチャネル)をnmレベルで構造制御したことがポイントだという。

 同電解質ポリマーの組成については,「炭化水素系の熱可塑性樹脂」という以外一切明らかにしていない。芳香族を含むかどうかについても未公表である。ただし,「炭化水素の骨格から分子構造を最適化した」としている。イオン伝導を発現する官能基はスルホン酸イオン(-SO3-)で,従来のフッ素系膜と同じだ。

 燃料電池の固体電解質膜では,このスルホン酸イオンが集まってクラスターを作成して,水素イオンの通り道(チャネル)として働く。具体的には水素イオンは水と反応して水和物となって,イオンチャネルを通過する。クラレによると,このチャネルをnmレベルで制御して,より連続性が高まるようにした。会場でパネル展示した電子顕微鏡写真によると,従来のフッ素系電解質膜ではイオンチャネルが点在しているのに対し,新電解質材料ではより連続性が高まっている(図1)。これにより,微細な導通ネットワークが形成されてイオン伝導性を高めることが可能になったとしている。

 一方,メタノールクロスオーバーを抑えるためには,水素イオンは透過するもののメタノールは透過しないような選択透過性を持たせる必要がある。これについては詳細は明らかにしないものの,イオンチャネルをメタノールが透過しないように小さく保ち,特に膨潤によるイオンチャネルの拡大を抑えるために,分子骨格には何らかの剛直な分子を導入していると見られる。

 開発した電解質膜のメタノール透過量は,フッ素系電解質膜に比べて約40%低減できたとするデータをパネル展示した(図2)。イオンチャネルを小さく保つとイオン伝導性は通常は低下するが,前述のイオンチャネルの連続性を高める工夫により,イオン伝導性はフッ素系と同程度を維持した。具体的には,フッ素系が0.12S/cmであるのに対して,新電解質膜は0.11S/cmとほとんど変わらない。この結果,出力密度を1.6倍に向上できたとしている(図3)。つまり,これまでトレードオフの関係にあると見られている,メタノールクロスオーバーの低減とイオン伝導性の向上をある程度両立できたことになる。