【図1】現行のフッ素系ポリマー電解質の分子構造。スルホン酸(-SO3H)の付け根にあたるCF2ユニットが電子を引っ張るためにスルホン酸イオンとなり,これが親水性を示すために,プロトン(H+)が伝導する
【図1】現行のフッ素系ポリマー電解質の分子構造。スルホン酸(-SO3H)の付け根にあたるCF2ユニットが電子を引っ張るためにスルホン酸イオンとなり,これが親水性を示すために,プロトン(H+)が伝導する
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【図2】新規のフッ素系ポリマー電解質の分子構造。従来構造にあった連結器部分がなくなるとともに,CF2ユニットを増やした
【図2】新規のフッ素系ポリマー電解質の分子構造。従来構造にあった連結器部分がなくなるとともに,CF2ユニットを増やした
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 旭化成は,高分子固体電解質型燃料電池(PEFC)向けに耐熱性に優れたフッ素系ポリマー電解質を開発した(Tech-On!の関連記事)。耐熱性の指標である熱分解開始温度は393℃であり,従来のフッ素系ポリマーに比べて76℃改善した。燃料電池の長寿命化につながることから,「次世代のポリマー電解質材料の開発に成功した」(旭化成)としている。

 現在,PEFCに使われているポリマー電解質材料は,パーフルオロスルホン酸系ポリマーである。「テフロン」で知られるフッ素系主鎖(-CF2CF2-)にモノマー合成上必要な「連結器」部分とスルホン酸(-SO3H)の付け根にあたるCF2ユニット2個からなる(図1)。

 これに対して,今回旭化成は,連結器部分をなくすとともに,スルホン酸の付け根のCF2ユニットを4個に増やした新しい分子構造のポリマーを合成した(図2)。「連結器」部分をなくすことによって高温での機械的特性が向上し,CF2ユニットを増やすことによって熱分解温度を向上できたという。

 熱分解開始温度は従来が317℃だったのを393℃に,ガラス転移温度は従来が123℃だったのを144℃に向上した。プロトン伝導度についても従来の0.10S/cmに対して,0.14S/cmとアップした。強度もアップすることから薄肉化も可能だと見ている。

長期運転試験で問題になったポリマーの耐久性


 PEFCに使われているフッ素系ポリマー電解質は,1960年代に食塩を製造する際のイオン交換膜として開発されたもので,燃料電池向けに最適化されたものではなかった。現在でもその基本構造はほとんど変わっていないという。現在燃料電池開発は,一部実用特性を評価するフェーズに入っており,長期運転試験時にフッ素系ポリマーの化学劣化が起こることが明らかになり,改善が望まれていた。原因としては,活性酸素ラジカルの発生による分子鎖への攻撃・分解と電極周辺で局部的に高温になることによる熱分解などが考えられている。同社では,熱分解温度を向上できたことから,従来のポリマーより耐久性を高められると考えている。

 他社でもフッ素系ポリマーの性能向上の試みはされているが,今のところここまでの耐熱性向上の報告はないという。また,フッ素系以外の芳香族炭化水素系のポリマー電解質も登場している。それに対して同社は,「耐熱性の数値そのものは芳香族炭化水素系ポリマーの方が高いが,活性酸素ラジカルの攻撃に耐えるように材料設計するのは難しいのではないか」という。

 今回合成した新ポリマーはまだ基礎研究レベルだが,合成法を検討した結果,経済的に製造できるめどをつけたことから,今後量産技術の開発フェーズに移し,実用化を目指す。製造コスト面でも従来のフッ素系ポリマーと同等のレベルにできる可能性があると見ている。