提携発表の記者会見で握手する千本氏(左から2人目),城所氏(右から2人目)ら両社首脳陣
提携発表の記者会見で握手する千本氏(左から2人目),城所氏(右から2人目)ら両社首脳陣
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 東京放送(TBS)は,イー・アクセスの子会社で携帯電話事業への参入を準備しているイー・モバイルへ100億円を出資する。イー・モバイルが実施する第三者割当増資をTBSが引き受けるものだ(Tech-On! 関連記事)。「放送事業者と通信事業者による本格的な資本提携は日本で初めて。今回の提携を端緒として,放送事業者と通信事業者のアライアンスが日本でも増えていくだろう」(イー・アクセス 代表取締役会長&CEOの千本倖生氏)としている。

2000年にも出資要請

 実はTBSは,2000年にも1度イー・アクセスから出資要請を受けていたという。「イー・アクセスの設立時に話をいただいた。しかし,当時はADSLという事業の将来性に疑問を感じていた。遠からずFTTH(fiber to the home)の時代が来るのではないか,と考えた。そのため,出資は時期尚早としていったん断った」(TBSテレビ 専務取締役の城所賢一郎氏)。

 今回の出資についても,「100億円と巨額な出資案件ということもあり,半年ほどかけて慎重に検討した」(城所氏)という。最終的に出資を決断したのは,携帯電話事業の潜在的な可能性の大きさに期待したためとしている。「携帯電話機は将来,パーソナルな有力な情報端末になるとTBSでは考えている。TBSの持つ映像コンテンツをイー・モバイル向けに配信するだけでなく,映像以外のデータ通信や,イー・アクセスの固定通信網を用いた事業にも進出していきたい」(城所氏)と将来に向けた展望を表明した。

「イー・モバイルとなら,いろいろできると期待」

 もっとも,現時点でイー・モバイルは携帯電話事業への参入が決定しているわけではない。千本氏が描くタイム・テーブルは「2005年末に免許交付を受け,2006年度中にデータ通信サービスを開始する。その後,サービス地域の展開が進んだ段階で音声サービスを開始する」というものだ。仮に参入が実現しても,NTTドコモやKDDIのような既存の携帯電話事業者と肩を並べる内容のサービスがすぐにできるわけではない。にもかかわらず,この段階で出資を決めたのは「既存の通信事業者は巨大であるがゆえに,放送局各社と等距離で付き合わざるをえない。イー・モバイルと連携すれば,いろいろおもしろい事業ができるのではないかと期待している」ためだという。

 「いろいろおもしろい事業」の中身については,「今の段階でしゃべるわけにはいかないでしょう。アイデアは既に複数あり,数年後に『そういうことだったのか』と理解してもらえる内容だと思う」(千本氏)とだんまりを決め込む。詳細については,TBSとイー・モバイルの両社による委員会を設置し,そこで検討していくことになる。具体的には,1セグメント放送への対応や,放送とデータ通信の連携サービスといった分野を想定している。

「TBSの買収防止策の一環」との見方も

 イー・アクセスは携帯電話事業への準備として,現預金を1000億円用意するなど資金集めに余念がない(Tech-On! 関連記事)。「今回の出資を含め,最終的には複数の企業から1000億円くらいの出資を仰ぎたい」(千本氏)としている。なお,TBS,イー・モバイルともに「提携は排他的なものではない」としており,他の通信事業者や放送事業者を含めた提携の動きが今後出てくることが予想される。

 ちなみにTBSは今回,イー・モバイルとの提携と時を同じくして,第三者割当増資と自社保有株売却により電通,ビックカメラ,三井物産,毎日放送から合計279億円の出資を受け入れることを発表している。TBSが買収防衛策の一環として受け入れた出資金の用途に,今回のイー・モバイルとの資本提携を合わせ,一石二鳥を狙ったものとの見方もある。これについて千本氏は記者会見で「今回の資本提携はいわゆる『ホリエモン対策』ではない」(千本氏)とのコメントを発表している。