ある半導体メーカーCEOのインタビューで聞いてみました。インスツルメントパネルやタッチパネルといった車載のユーザーインターフェース機器を制御するICは、自動運転が普及した後も売れ続けるのかと。答えは「エアコンや音楽プレーヤーなど、人が操作する部分は残るから大丈夫」。本当にそうでしょうか。自動運転さえ可能な人工知能であれば、人の顔色を伺って快適な環境をお膳立てすることなど造作ないようにも思えます。

 今号の特集記事では、5年後の東京オリンピックに向けた映像機器やサービスの進化を取り上げました(記事)。国内の電機メーカーが期待をかける機器の1つにデジタルサイネージがあります。世間にあふれる標識のほとんどはデジタル化されていないため、市場開拓の余地が大きいというわけです。2020年にもなれば、デジタルサイネージが情報を表示する相手は人間だけではないでしょう。例えば自動運転車に向けた可視光通信の機能などが組み込まれるかもしれません。

 個人的には、映像コンテンツも機械向けに配信されるのではと勘ぐっています。今回のInnoavtorに登場していただいた映画監督の大友啓史氏によれば、画面の大きさによって適したコンテンツは大きく変わるそうです(記事)。多様な画面を利用できる2020年には、魅力的なコンテンツが今以上にあふれることになります。

 残念なのは、そのすべてを消化する時間がないことです。恐らく多くの人は、自分に適した映像の取捨選択を、何らかの機械に頼るのではないでしょうか。だとすると機械にも分かるように映像の内容を記述したメタデータの作り方が重要になりそうです。あるいはこのころには、別送するデータの助けがなくても、機械に組み込んだ画像認識機能で事足りてしまうのかもしれません。

 想像を逞しくして、その先の未来を予測してみましょう。もし3度目の東京五輪があるとしたら、機械による競技が花盛りになり、純粋に機械が楽しむための映像配信もあり得そうです。

 なぜ、わざわざ機械にまで娯楽を提供する必要があるのでしょう。理由は右肩上がりの経済成長の実現です。特に、高齢化が進み人口が減っていく日本では、機械の力を借りてでも消費を拡大しないと、どこかで経済成長が立ち行かなくなるのではないでしょうか。機械が代金を支払えるかどうかわかりませんが。