前編より続く

A-D変換回路は,必ずアナログとデジタルを含む回路となる。設計で重要なのは接地配線である。基本的にアナログ接地とデジタル接地を分離すればよいのだが,実装に際しては工夫が必要となる。最終回では,複数チャネルのA-D変換回路を前提として具体的な接地配線の手法を紹介する。(清水 直茂=日経エレクトロニクス)

 A-D変換回路は,必ずアナログ回路とデジタル回路を共に含むミックスド・シグナル回路になる。こうした回路での接地配線はなかなか難しく,経験の浅い多くのエンジニアが苦労する。

 実のところ,基本的な考え方はシンプルだ。AG(analog ground,アナログ接地)とDG(digital ground,デジタル接地)を分離すればよい。A-D変換データに生じる誤差や雑音の主な原因は,デジタル回路のリターン電流に載った雑音が,接地配線を介してアナログ回路側に影響を与えてしまうことにあるからだ(図1)。デジタル信号はアナログ信号と比べて,パルス状の高周波成分を多く含んでいる。

†リターン電流=ここでは,電源の正極(出力)から供給された電流が,接地配線を介して同じ電源の負極(コモン)に戻る電流と定義する。

図1 アナログとデジタルの接地点の分離は難しい<br>複数チャネルのA\-D変換器を使いこなすには,接地点への適切な対策が必須となる。特に,デジタル回路のリターン電流の雑音が,アナログ回路に影響することを防がねばならない。
図1 アナログとデジタルの接地点の分離は難しい
複数チャネルのA-D変換器を使いこなすには,接地点への適切な対策が必須となる。特に,デジタル回路のリターン電流の雑音が,アナログ回路に影響することを防がねばならない。
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 1チャネルのA-D変換回路であれば分離は簡単だ。だが複数チャネルの場合,デジタル回路のリターン電流が予期しない経路でAGに回り込むため,工夫が必要となる。そこで今回は,複数チャネルにおける基本的な接地配線の手法,および基本的な配線が実現できない場合の対策を紹介する。

設計の要点は二つ

 具体的な対策を示す前に,まずはなぜA-D変換器はAGとDGの二つの端子を持つかを考える。もし,AGとDGが分離されておらず,一つの接地となっていると,そこには共通インピーダンスが存在する(図2)。上述のようにデジタル信号はパルスに近い高周波成分を含んでおり,インピーダンスに効いてくる。このため,デジタル回路側の電流が共通インピーダンスに流れると,パルス状の大きな電位差ΔVCOMが発生する。これがAGとDGの電位を押し上げる。アナログ入力部はAGを基準に入力信号VIを取り込むため,結果として変換データはΔVCOM分小さな値となる。以上が,分離が必要な理由である。

図2 接地点を共通にすると変換誤差が生じやすい<br>A\-D変換器のアナログ部とデジタル部の接地点を共通にすると,共通インピーダンスが介在してしまう。この共通インピーダンスにパルス状の電位差が発生し,変換データに誤差を生じさせてしまう。
図2 接地点を共通にすると変換誤差が生じやすい
A-D変換器のアナログ部とデジタル部の接地点を共通にすると,共通インピーダンスが介在してしまう。この共通インピーダンスにパルス状の電位差が発生し,変換データに誤差を生じさせてしまう。
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