前編より続く

前回までは,AC用途のA-D変換器のデータシートの読み方を紹介した。今回は,歪みゲージや圧力センサなどに適用することの多い,DC用途でのデータシートの読み方を解説する。DC用途ではデータ変換速度よりも雑音特性などを理解することが重要となる。(清水 直茂=日経エレクトロニクス)

 前々回からA-D変換器のデータシートに使う用語を3回に分けて解説しており,今回は第3回となる。第1回はAC用途のA-D変換器のサンプリング特性とAC特性について,第2回はAC用途のアナログ入力特性とDC特性について紹介した。今回はDC用途のA-D変換器に着目し,主な用語について解説する。

 データシートの例としては,ブリッジ回路を使う歪みゲージなどに向けたΔΣ型A-D変換器(「ADS1232/1234」,24ビット,80サンプル /秒,米Texas Instruments Inc.(TI社)製)を使う注1)

注1) 「ADS1232」と「ADS1234」の違いは差動入力のチャネルの数のみで,ADS1232が二つ,ADS1234が四つとなる。

DC用途では雑音性能がカギ

 まずはADS1232/1234のデータシートの表紙を見てみる(図1)。これを見ると,多くの項目は雑音性能に関連したもので,変換速度などに関する項目はない。歪みゲージなどの出力信号は微小で,A-D変換器には良好なS/Nが必要となるからだ。このため,雑音を低く抑えることが何より重要となる。

図1 DC用途のA\-D変換器の表紙<br>歪みゲージや圧力センサなどのDC用途に向けたA\-D変換器「ADS1232/1234」のデータシートの表紙である。表記はデータシートに沿った。
図1 DC用途のA-D変換器の表紙
歪みゲージや圧力センサなどのDC用途に向けたA-D変換器「ADS1232/1234」のデータシートの表紙である。表記はデータシートに沿った。
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 例えば,歪みゲージでは1Vの駆動電圧に対して,フルスケール出力電圧(FSR)はせいぜい1m~2mVである。5Vで駆動した場合,FSRは 5m~10mV程度となる。これを5ケタ(1万カウント)で表示するとすれば,1カウント当たり0.5μVである。最下位のケタまで有効に表示するには,ピーク・ツー・ピーク雑音は1カウントの1/2である0.25~0.5μV以下と,かなり小さな値にまで抑えなくてはならない。