PFCは電流連続型か,不連続型か

 FPDテレビでは,「主流となった全波電流共振方式」の項で説明したように,PFCにはアクティブ型を用いる1)。アクティブ型としては,昇圧型のPFCを使う(図2)。これを薄型化するには,高周波化によってチョーク・コイルを小型化する必要がある。スイッチング周波数を高周波化するに当たり,スイッチング損失をいかに低減するかが重要だ。それには,ソフト・スイッチング技術を用いることが多い。

図2 昇圧型PFCの構成
図2 昇圧型PFCの構成
入力正弦波の電圧の小さな部分を昇圧することにより,出力コンデンサCoを充電する。これにより,正弦波のすべての部分で電流を流すことが可能となる。このときに,入力電流を入力電圧と同じ波形に制御することにより,力率を改善する。

 昇圧型PFCには,大きく分けて二つの動作モードがある。一つは,チョーク・コイルの電流が連続して流れる電流連続型だ(図3)。もう一つは,チョーク・コイルの電流が連続しない不連続型である。不連続型は,チョーク・コイルの電流がちょうどゼロになったときにスイッチング素子をオンにさせる臨界電流方式として用いることが多い(図4)。PFCの薄型化に当たり,これらの中でどちらが最適であるか,長所/短所を考慮し検討してみる。

図3 電流連続型の主スイッチング素子の電圧と電流波形
図3 電流連続型の主スイッチング素子の電圧と電流波形
チョーク・コイルLの電流がいったんゼロになる前に,スイッチング素子Qをオンにする。従って,整流ダイオードDに電流が流れているときにスイッチング素子Qがオンとなり,リカバリ電流が発生する。
図4 臨界電流方式のスイッチング素子の電圧と電流波形
図4 臨界電流方式のスイッチング素子の電圧と電流波形
臨界電流方式は不連続電流型の一種で,チョーク・コイルの電流がちょうどゼロになったときにスイッチング素子をオンにする。これにより,ソフト・スイッチングが可能となる。スイッチング素子をオフにしたときの電流ピークが高く,サージ電圧がやや大きい。

 電流連続型の長所は,スイッチング周波数を固定にできる点にあり,一般的な固定周波数のPWM制御を使える。不連続型の臨界電流方式のように臨界点を検出するための巻き線や電流検出回路が不要なため,回路を簡素化できる。その一方,スイッチング周波数に比例して損失が増加することが短所である。整流ダイオードに電流が流れているときにスイッチング素子をオンにするため,整流ダイオードのリカバリ電流が発生する。このリカバリ電流はすべてスイッチング損失となるので,損失はスイッチング周波数に比例して増加してしまう。

 このため,スイッチング周波数を高周波化するには,超高速の整流ダイオードが必要になる。約250kHz以上のスイッチング周波数ではSiCやGaNによるショットキー・バリア・ダイオードを用いたい注3)。ただ,これらのダイオードは非常に高価であるため,通常の高速ダイオードで高周波スイッチング周波数に対応できる回路方式を採ることになる。

注3) SiCはシリコン・カーバイト,GaNはガリウム・ナイトライド。どちらもワイド・バンドギャップ半導体である。電子密度が高く,かつキャリア移動度が高いことが特徴。次世代のデバイスとして期待されている。

 このような回路方式として,例えばRS-PFCが知られている(図5)。しかし,この方式ではチョーク・コイルの巻き線構造が複雑になる欠点があるため,薄型の巻き線には構造的に不向きである。

【図5 RS\-PFCの構成】チョーク・コイルをN1とN2に分割巻きにして疎結合とし,意図的にリーケージ・インダクタンスLrを生成する。さらに,補助整流ダイオードD2を追加する。これにより,リカバリ電流はLrによって抑制され低減する。また,D2は必ずゼロ電流でオフにするため,リカバリ電流が発生しない。
図5 RS-PFCの構成
チョーク・コイルをN1とN2に分割巻きにして疎結合とし,意図的にリーケージ・インダクタンスLrを生成する。さらに,補助整流ダイオードD2を追加する。これにより,リカバリ電流はLrによって抑制され低減する。また,D2は必ずゼロ電流でオフにするため,リカバリ電流が発生しない。
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†RS-PFC=サンケン電気で開発した,リカバリ電流を抑制できる力率改善回路方式。RS-PFCとは,Recovery current Suppression-PFCの略語。