今回は,物理層の試験における代表的な試験項目であるEVM試験を例にして,計測の注意点と計測結果に基づいて不具合を改善するための分析手法を解説します。(連載の目次はこちら

 ここでは,物理層の試験における代表的な試験項目であるEVM試験を例にして,計測の注意点と計測結果に基づいて不具合を改善するための分析手法を解説します。EVM試験はデジタル信号の変調精度を計測する試験です。図5にコンスタレーション上でのEVMの定義を示します。この図に示すように,送信機から実際に送信されたシンボルと,理想的なシンボル(基準信号)からエラー・ベクトルを定義します。そして,エラー・ベクトルと基準信号の大きさの比をEVMとして,変調精度を測る尺度にしています。

†コンスタレーション=ビット列の信号を,振幅と位相で表したもの。変調手法や変調時の不具合を直感的に図示できる。デジタル変調の多くは正弦波の直交性を応用して,位相が90度ずれた正弦波(IとQ)で変調をかけます。コンスタレーションでは,同相成分をx軸,直交成分をy軸として信号をプロットします。アイパターンと同様に,デジタル信号のアナログ的な要素を統計的,定性的に把握するために使います。

図5 EVM(変調精度)の定義
EVM試験では,送信機から実際に送信されたシンボルと理想的なシンボル(基準信号)を結ぶエラー・ベクトルの,基準信号のベクトルに対する比で定義するEVMを計測します。これによって,デジタル信号の変調精度を調べる。

 まずWireless USBのEVM試験に向けた計測器の構成に注意すべき点があります。UWB以外の無線技術を対象にしたEVM試験では,通常スペクトラム・アナライザを計測に用います。しかしUWBのような1GHzといった広帯域の変調信号は,スペクトラム・アナライザで捕捉することは不可能です。このため,同時サンプリング・レートの高いリアルタイム・オシロスコープで信号の時間軸方向での変化を捕捉し,FFTを使って周波数軸での分布に変換して代用します。

†リアルタイム・オシロスコープ=サンプリングしている時点での信号の様子をリアルタイムで表示する方式のオシロスコープ。

 UWB信号の周波数は最大約10GHzです。そして,オシロスコープのサンプリング・レートは計測する信号の周波数の約4倍あることが理想です。このため,この試験に用いるリアルタイム・オシロスコープのサンプリング・レートは40Gサンプル/秒以上あることが理想です。ちなみにWiMediaの物理層の試験では,装置としてリアルタイム・オシロスコープで,少なくとも20Gサンプル/秒で波形を取り込むことが可能な製品を使用することが規定されています。

 また,WiMediaにおいては,ケーブル接続によりEVM測定を行います。しかし,Wireless USBの試験においては無線の環境で試験を行う必要があります。この点も,WiMedia向けの試験仕様書を参照しながら計測環境を整える場合の注意点になります。詳しくは後述します。

 計測器の構成を考える上で前提となる計測作業の基本的な流れは,以下の通りです。認証試験では,計測対象となるデバイスまたはDWAから試験信号を出力させて試験を実施することになります。試験信号を出力する機能は,デバイスにもともと組み込まれているため,ホスト側で試験信号を出力するように指示すればよいことになります。ホスト側のパソコンでWUSBCVを起動させループバック・モード,もしくは計測器ベンダーのソフトウエアを使用して規格認証試験モードに移行させます。計測対象から出力された信号をオシロスコープに接続したアンテナにより捕捉し,ソフトウエアを使って解析します。