これまで,民生機器向けの代表的な高速データ転送技術であるHDMIを題材にして,実際に行う計測の基礎などを説明してきました。最新の規格認証試験の仕様書には,試験に使用できる計測器や手順が詳細に記述されています。従って認証試験は完全に定義されているように見えますが,現実には試験時間や試験の再現性確保といった課題が残っています。今回は,こうした課題を解決するための技術について解説します。(連載の目次はこちら

 現時点で最新の規格認証試験の仕様書はCTS 1.3bです。この中で,試験に使用できる計測器や手順が詳細に記述されています。これによって規格認証試験は完全に定義されているように思われますが,現実にはまださまざまな課題が残っています。最大の課題は,ATCでの試験時間の短縮と試験の再現性の確保です。計測技術の工夫によって,こうした課題を解決するための技術開発が進んでいます。

効率化と再現性の向上が課題

 現在,正式な試験機関として認められているATCは6カ所です。これらのATCでは,CTSに記載された設備を使用して試験を日常の業務として実施しています。

 試験時間の短縮については,ATCに依頼される試験件数が極めて多くて常にバック・ログを抱えている状況から,重要かつ緊急の課題です。対策としては,試験手順の簡略化,試験機材の性能向上,試験の自動化などが検討されています。しかし,解決には至っていません。セルフ・テストを普及させてATCへの依存度を下げるのが望ましいのですが,HDMI仕様の改定がしばしば行われるため,標準としてのATCの役割への期待が大きく,試験件数は減少しないのが現状です。

 自動化による効率向上への期待は大きく,計測ソフトウエアの改良が随時行われてきています。しかし機材の接続変更を行いながら試験を実行する必要があって,十分な効率化はできていません。特にTTCやケーブル・エミュレータの取り替え作業が自動化のボトルネックになっています。シンク試験で,試験対象の機器の動作を人間の目あるいは耳で確認する必要があることも,試験の無人化を困難にしています。

 一方,試験の再現性向上ですが,これにはいくつかの側面があります。一つは,大きな時間間隔を置いて再測定した場合に同じ結果が得られるかどうかです。試験機材の経年変化や試験ソフトウエアのバージョンアップによって,以前と異なった試験結果が得られる可能性があります。計測器がモデルチェンジしたために,後継機種に置き換える場合なども注意が必要です。HDMI仕様自体のバージョンアップによって試験機材がアップグレードされた場合に,旧規格の試験を以前と同様に実施できるかどうかも検討する必要があります。

 もう一つの側面は,複数のATC間での相関性です。ATCは判断の基準となりますので,どのATCでも同じ計測値が得られ,同じ判定結果にならなければなりません。しかし異なるメーカーの計測器を使い,ケーブル・エミュレータのように機材自体の特性に決定的に依存する要素がある現状では,簡単に達成できないのも事実です。特定の被評価物をATC間で持ち回って試験結果を比較することで,同じ判定が行えているか確認するような努力が払われています。