これまで2回にわたり,計測技術の原理原則を知ることの重要性を述べてきました。今回は,規格認証試験向け計測を行うときに,技術者が留意しておいたほうがよさそうな「試験計測10カ条」を示します。(連載の目次はこちら

 規格認証試験向け計測を行うときに,技術者が留意しておいたほうがよさそうなポイントを各論文から抽出して,「試験計測10カ条」にまとめました。

【計測の心得】

(1)機材の機能や性能だけに頼る計測は危険
現在の計測器は,自動化が進み,使い手が計測に熟練していなくても結果が得られます。しかし,不具合への対処や高付加価値な製品の開発では,起こっている現象を理解する必要があります。

(2)手法や条件は常に計測結果に影響している
電子回路の中から信号の取り出す作業そのものが,回路内の信号に影響を与えています。計測器に原因がある誤差もあります。良くない結果が得られたとき,原因は計測対象側ではなく,計測器側にあるかもしれません。

(3)成功したときにもしっかり解析
開発や計測の成功を次につなげるためには,成功要因をしっかりと解析しておきましょう。意外と忘れがちです。

【技術標準との対し方】

(4)技術標準は変わる,認証試験も変わる
消費者のニーズの変化や新技術の開発によって,技術標準と認証試験に使う計測手法は常に改善されていきます。最新のものだけが標準です。常に情報を更新しておきましょう。

(5)試験合格だけでは相互接続に直結しない
規格認証試験は相互接続の保証に必要なすべての項目,すべての条件を網羅しているわけではありません。対応機器を開発するメーカー側で試験項目を超えた相互接続の検証をしておく必要があります。

(6)ユーザーのスキルを見極めて相互接続を保証
機器接続でのユーザーのスキルを全く期待できない民生機器は,認証試験のほかに独自の相互接続試験をしておく方がよさそうです。

(7)技術標準の順守の前に法令順守
無線機器の開発では,日本の電波法のような法令を順守していないと,開発中の試作機でも電波を発することができません。

【一歩差がつく計測に向けて】

(8)開発から製造・保守まで計測の一貫性を追求
ユーザーからのクレーム回避や製品の品質維持,歩留まり向上の観点から,開発から製造・保守までの計測手法に一貫性を持たせておく方がよさそうです。特に開発時にギリギリの設計している場合は必須です。

(9)決定前の仕様,技術の源流を探って先回り
技術標準や規格認証試験の仕様が固まる前に先行製品開発する場合,策定中の技術標準の基になる技術や標準を探します。これに使われている計測手法や条件を使えば,規格決定後にも大きく外れる可能性は少なくなります。

(10)戦略的計測,少ない費用で大きな効果
高速データ伝送技術の規格認証試験と同じ試験項目を自社で実施できれば理想的です。しかし実際には,非常に高額な設備投資費と維持費が掛かります。自社にノウハウを蓄積したい技術,今後の製品ロードマップ,秘匿しておきたい製品,自社の製造・保守での品質管理手法などを勘案した計測戦略を持っておく必要がありそうです。